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ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

ネットフリックスの躍進は続くのか――コンテンツと価格がカギに

ネットフリックス、1年で「WOWOW超え」のなぜ(東洋経済オンライン)

井上 昌也 : 東洋経済 記者

 

 映画など動画配信の大手ネットフリックス(Netflix)が初めて日本での会員数を公開、300万人に達したことを9日6日の記者会見で明らかにしたそうだ。

 

 このネットフリックスの成功要因を解説する記事「ネットフリックス、1年で『WOWOW超え』のなぜ」が11月17日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 現在動画配信サービスで最大手はNTTdocomoが手掛けるdTV。会員数は2016年に500万人を突破したが、その後は伸び悩み2017年には469万人に減少したことを考量すると、2019年時点では400万人台前半程度と推定される。

 

 一方のネットフリックスだが、記事の数表によれば会員数の伸び率が77%と、Huluの11%、WOWOWのマイナス1%を大きく凌駕している。

 このままの勢いが続けば、最大手dTVに追いつく日もそう遠くはないだろう。

 

 記事で成功要因として挙げているのが「日本初のオリジナルコンテンツ」の充実。同社は9月からの1年間で16ものオリジナルコンテンツを配信、例としてアニメを挙げ、作品制作にあたって有力プロデューサーを採用したほか、これまで主流の制作委員会方式からネットフリックスが直接製作費を出すという。

 これは関係各社が資金を出し合って、売り上げを出資分に従って分け合うといういわば「寄り合い所帯」から、ネットフリックスが配信する作品を「直接関与」するスタイルになる。

 

 記事では、チーフプロデューサーの櫻井大樹氏の発言として「忖度をしなくていい。クリエーティブファーストで、(さまざまな表現に)踏み込むことができる」を紹介しているが、これによって政策委員会のように合議制で「ラノベが売れたから」というような理由で、無難な作品を選びがちな傾向は改善されるだろう。

 ただ、「忖度をしなくていい」というのは、あくまでネットフリックスが視聴されると認めた作品と言う条件付きではある。完全な意味での「金は出すが口は出さない」ということではないだろう。

 

 また、記事では「KDDIや家電メーカーなどとの提携も300万人突破に大きく貢献」と記載しているが、家電メーカーとの提携については具体的な言及がない。

 私見だが、ここで言う「家電メーカー」というのは、販売店への販促政策もあるだろうが、効果が大きかったのはテレビのリモコンへの「Netflix」ボタンの追加だろう。

 

 パナソニック東芝のリモコンには赤文字で「NETFLIX」のボタンが堂々と配置されている。その他の動画配信の専用チャンネルは見当たらない(ソニーはhulu、U-NETなどにも専用ボタンで対応している)。

 動画配信を見る側にすれば、ボタン一つでチャンネルを選べる「専用ボタン」(しかも赤で目立つ)の存在は大きいはずだ。ちなみにAmazonプライムビデオは「大人の事情」から専用ボタンはどのメーカーにもない。別のアプリボタンに設定することはできるが。

 

 ちなみに正確な会員数を明らかにしていないAmazonプライムだが、会員になると動画の配信に加え、配送料無料サービス、200万曲の音楽の聴き放題などと複合的なサービスを実現、料金は今年値上げして年額4900円(税込)となったが、月に換算すれば408円(同)だ。最低料金が800円(税別)からのネットフリックスよりも競争力があるのは確かだろう。

 

 ただし、今後もAmazonの優位性が続くとは限らないと思っている。

 その根拠のひとつが、会費の値上げ懸念。現在は今年値上げして年額4900円だが、これは本国アメリカの119ドル(約13000円)、英国(同14000円)よりも圧倒的に安い(参照サイト)。

 

 これはAmazonが日本での有料会員の確保を最優先に考え、ある意味「採算度外視」で会員を確保するという戦略を取ってきたからだろう。

 今年1000円の値上げをしたが、欧米主要国とはまだ数倍の格差がある。これが向こう数年で1万円以上に引き上げられる可能性は決して低くないだろう。

 Amazonで買い物を頻繁にする層や、Primeビデオ、Primeミュージックが生活の中に組み込まれてしまえば、その利便性に慣れた会員がそう簡単に解約するとは考えにくいが、新規加入を考えた人が入会を躊躇する要因にはなるかもしれない。

 また、現在は無料の配送サービスも購買額などの利用条件が引き上げられる可能性も否定できない。

 

 もうひとつの懸念材料は、Primeビデオの有料チャンネル化。私の場合はアニメを視聴することが多いのだが、Amazonでは「dアニメストア」として有料チャンネルのサービスを開始、一部の人気のあるアニメや、これまで追加料金を支払わずに見れた作品の最新話については、この「dアニメストア」を契約しないと観れなくなった。

 ちなみにこの「dアニメストア」の会費は月額440円。一見安いようにも見えるが、prime会員の会費が月額換算で408円であることを考えると決して安くはない。

 

 この課金方式はAmazonミュージックではかなり前から行われている。6500万曲が聞き放題となるが、こちらの月額料金は780円とprime会員会費の倍近い。もっともスマートスピーカーEcho向けには別途安いプランもあるが。

 

 以上から、現在の状況を整理すると、最大手のNTT系のdTVは今後独自コンテンツの不足から伸び悩む傾向が続く公算が大きく、首位陥落は時間の問題。2番手に付けるAmazonは複合的なサービスで会員を確保しているが、値上げ次第で会員数の伸びは抑えられる可能性がある。急伸しているネットフリックスは、日本向けの動画配信サービスに今後さらに経営資源をつぎ込むので成長は続きそう、という見通しになる。

 

 あと言えるのは、既存のテレビ、特に地上波はコンテンツの劣化が止まらない以上衰退は必至、これらに不満を持つ層がネット配信に流れる可能性があることも、魅力あるコンテンツを提供できる動画配信サービス業者には追い風になるはずだ。

 いずれにせよ、配信企業にとっては魅力あるオリジナルコンテンツを提供できるかが最大のカギ、次いで支払う月額料金次第ということになりそうだ。