地方活性化の新規事業が大失敗する3つの要因(東洋経済オンライン)
木下 斉 : まちビジネス事業家
地方の時代が叫ばれて数十年、これまでに地方を管轄する自治省は総務省に統合され、地方創生担当大臣が創設、就任した。
かのように地方を盛り上げようとする動きは続いているのだが、成功し、しかも現在も継続中と言う案件はほとんど聞かない。
こうしたなか11月18日付けの東洋経済オンラインに「地方活性化の新規事業が大失敗する3つの要因」が掲載された。
記事では、山梨県南アルプス市が始めた「完熟農園」事業が開始から1年で破綻したこと、栃木県塩谷町の豆乳ヨーグルト事業が3年間で3900万円をとうじたものの売り上げは7万3800に留まったことを失敗例として紹介している。
また、「一見美しく、実は予算獲得をするためだけに終わりやすい無茶な計画」となる以下の3要素を紹介している。
- 「地域の独自性と理解可能な範囲の新規性」
- 「一発逆転のキッカケ、起爆剤の役割」
- 「地域に関わる行政、さまざまな地元団体などが一丸となるという合意形成」
いずれも詳細は記事を読んで頂くとして、この3つの要素に共通しているのは、地方活性化を名目に「事業の実現」よりも、の名のもとに国からの「予算獲得」が目的化していることだ。
簡単に言えば、予算を引っ張ってこれるようなアイディアが優先され、「おカネがあれば何とかなる」という考えが根底にあるのだろう。
昭和の時代の高度成長期でもないのに、おカネをつぎ込めば事情は成功するという考え方は、もはや完全な時代遅れで「田舎のビジネス事情に疎い年寄り」にしか通用しない手法である。
また、これはあくまで私見だが、地方再生を自任するコンサルタントやそれをサポートする広告代理店の存在も大きいはずだ。
彼らは、最新のビジネス実情に疎いが、地元に影響力のある地方関係者(役人、商工会、議員)などにうまく取り入って、さも効果がありそうに見える地方活性化策を提案、政策実現に向けて関係する有力者の説得から始める。しかしながら、その提示する活性化案は過去に他の自治体の活性策で使った資料を、多少手直しした程度の内容に過ぎない。
彼らは、人当たりもよく、話術も得意、また予算獲得までは精力的に働くので、地方の関係者はすぐに信用してしまう傾向にある。そのベースにある活性化案が他の自治体の失敗例であるにも関わらずだ。
先の3つの要素を考えてみても記事では、
1の「地域の独自性と理解可能な範囲の新規性」については、「自分たちの計画が実現可能であるかどうか」を無視して、筋書きを書いてしまったからこそ、採択後に苦しんでしまうと断言している。
2の「一発逆転、地域活性化の起爆剤になる事業」については、そもそも「存在しない」とまで言い切っている。
3の「地域が一丸となってまとまれば、まち全体が変わる」についてだが、これこそ「コンサルタントと広告代理店」の得意とする分野だろう。利害関係者を口八丁手八丁でうまく丸め込んで合意形成に至らせる手腕は見事と言うべきモノだ。
かくして、「失敗が確実」な地方活性化事情がスタートする訳だが、当然ながらうまくいかない。記事に「何をやるのにも反対が出て、成功しても、失敗しても、100%もめます」とあるように、計画が実行に入る段階で、無理が露呈するのである。
しかもこの時点ですでにコンサルタントと広告代理店は「報酬」を得ているので、事後のもめ事には関与しない。もはや彼らの関心は「次の獲物」である。
結局あとに残るのは、有効な使い道のないままに獲得し、返還するにも抵抗がある国から得た予算ということになる。簡単に言えば「税金の無駄遣い」の典型例だ。
記事では最後に、「まずは営業してから予算のことを考えること」を提案している。その理由として「そもそも売れるかどうかわからないような商品開発に、最初から国や地方自治体などから予算をもらうこと自体が、狂っている」と解説している。
以前、一部の有名商社の幹部が「売ってから商品を仕入れろ」という方針を打ち出していた。一見非常識のような話だが、商売の基本を鋭く突いているとも言える。
言い古された感もあるが、「事業を計画するのは誰でもできる、問題は商品が売れるかどうかだ」という言葉はまさに正鵠を得ている。
「売れる」商品を開発することが最優先事項であり、地方が活性化するのはその「結果」に過ぎない。
地方活性化の第一歩は、目的と手段を正しく認識することである。