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昭和の団地が若い世代に人気? リノベで注目

40組超の待ち発生「埼玉にある団地」の人気ぶり(東洋経済オンライン)

『SUUMOジャーナル』編集部

 

 昭和の時代に急増する人口に対応するため建てられた「団地」。 この築40年を超えるような物件が相次ぐ「団地」が若い世代に人気の兆しがあるらしい。

 11月23日付けの東洋経済オンラインに、「40組超の待ち発生「埼玉にある団地」の人気ぶり」という記事が掲載された。

 記事で取り上げているのは、東武スカイツリーライン・新田駅から徒歩8分という住宅街にある「ハラッパ団地・草加」。建てられたのは1971年だから築48年になるが、元社宅だったのを全面リノベーションして、55戸の賃貸住宅にしたことろ、現在40組以上が入居待ちだという。

 

 私が小学生を過ごした地域にも数千人が住む「大型の団地」が学区にあって、クラスの半分の生徒が団地住まいだった。友達の家に遊びに行ったこともあったが、部屋の広さや設備よりも、同じような建物が数十棟も建て並んでいるので、「よく間違えないな」というのが正直な感想だった。

 

 記事では、埼玉にある民間の小規模な物件を紹介しているが、実はこの「昭和の団地」の再生事業は、今少しづつ、かつじわじわと定着しつつあるかもしれないのだ。

 

 比較的有名な事例を引き合いに出すと「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」がある。

 これは「MUJI」の無印良品ブランドで日常品などを手掛ける株式会社良品計画と、UR都市機構(旧住宅都市整備公団)が共同で手掛ける事業で、「これまでにない暮らし方を賃貸住宅で実現しようとする試み。

 古くなった住まいも愛着を持って長く丁寧に住みつないでいくことが、これからの日本の暮らしのスタンダードになってほしいと思っています」とWebサイトでは解説している。

 

 個人的な感覚では、過去のイメージから「狭い」「暗い」「ガス窯一体の風呂」という印象を持っていたのだが、サイトを見て驚いた。

 その画像は、とても過去の「団地」のイメージとは結び付かないのだ。白をベースにした明るい部屋で、間取のプランも「コンパクトライフ」など16種類もある。

 しかも当時一般的だった「湯舟脇のガス窯」は外に出され、バルコニーにあった洗濯機置き場は室内に取り込まれた。インターネット環境も整備されている。

 私がこれまで抱いていた「団地」の印象は大きく変わった。しかも上記物件の賃貸料は4万2000円(別途共益費3050円)と格安。しかも礼金、仲介手数料、更新料も不要となれば、人気化する理由にも頷ける。

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UR賃貸物件の一例

 

 当然ながら、メリットの裏側にはデメリットもある訳で、この物件だと床面積は45平米が基本。空きがあるのは4階か5階なので、エレベーターがないのは小さな子供や荷物を抱えた主婦には厳しいかもしれない。最寄りの駅からバスで15分以上かかるというのも都心への通勤者には辛いだろう。

 ちなみに、この団地をたまたま最近訪れたことがあるのだが、中規模のスーパーは営業中だが、商店街の半数以上は閉店していて、いわゆる「シャッター通り」になっている。

 

 とはいうものの、「人口減少」「高齢化」「寂れる商店街」というイメージの強い「昭和の団地」にこうした再生事業が動き出していることは注目すべきだろう。

 リノベーションで1981年の耐震基準をクリアしていれば、築年数は気にならないかもしれない。広さと利便性に目を瞑れば、格安に住めるメリットを評価する人は今後も増える可能性はある。働き方改革の進展によるリモートワーク(在宅勤務)の普及も追い風になりそうだ。

 

 ただ気になったのは、記事全体のトーンが、住環境全体を評価するような内容ではなく、住んでいる人へのインタビューを元に「人とのつながり」といった主観的な感想の紹介が多いこと。居住者の感想も参考になるが、これから入居を検討している人にとっては、買い物や学校の様子などの方が気になると思う。

 

 あと、これは意外な盲点だと指摘したいのが団地の階段事情。一般的なマンションやアパートはエレベーターや階段が一か所にまとめられていて、その階の全ての人が廊下を利用する。当然ながら廊下に接した部屋の外を誰がいつ通るかは自由だ。

 これに対して団地の階段は1階あたり2世帯がひとつの階段を占有することになり、階段には玄関しか接していない。つまり外から覗かれたりすることがないのだ。これはプライバシー保護の点から見ても利点としていいだろう。また、南北もしくは東西に窓が開けているので、風通しもいい。

 ただ、階段自体は狭いので、大きな荷物は運びにくいし、玄関前の踊り場も余裕はない。5階ともなれば上り下りの疲労度は大きいだろう。

 

 こうしたメリット、デメリットをしっかり調査、把握したうえで、若い世帯などがリノベーション済の団地に住み始め、新たなコミュニティーが作られていくのは望ましいと思う。