如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

金融庁が金融知識の普及要員を公募――やりがいはありそうだが・・・

金融庁「おもしろ求人」発見で考えた、投資教育で伝えるべき7つのこと(ダイヤモンドオンライン)

山崎 元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 

 最強の金融庁長官と呼ばれた森長官の時代から、その存在感と影響力を高めてきた金融庁が、知識普及関連業務に従事する職員を募集している。募集をWebサイトで公開したのは11月20日だが、この試みについて経済評論家の山崎元氏の記事「金融庁『おもしろ求人』発見で考えた、投資教育で伝えるべき7つのこと」が11月27日付けのダイヤモンドオンラインに掲載された。

 

 個人的には山崎氏を、国内系及び外資系の金融機関に10数社勤めた異例の経歴を持ちながら、現在は「個人目線で金融商品への投資」に的確なアドバイスをしてくれる信頼できる「数少ない」業界出身者の評論家だと思っている。

 実は20年以上前にまだ山崎氏が外資系の証券会社で仕事をされていた頃に、一度仕事でお会いしたことがあるのだが、当時から忌憚のない意見をする意外な”業界人”だったと記憶している。

 

 さて、記事では、募集人員の解説に始まり、その実際の仕事としては「テキスト作り」が重要になるとし、そのテキストで取り上げるべき重点項目として「生活におけるお金の意味」など7つを挙げている。

 

 重点項目の具体的な内容は記事を読んで頂くとして、記事の視点として興味深かったのは、採用された職員の仕事のスタイルについてだ。

 先に述べたように、全国各地を回って学生や教員、社会人に金融知識を教えるのだから「やりがい」はあるとしつつも、金融庁内での意見や見解の合意は言うまでもなく、投資理論には欠かせない数学の知識も必要になるため、文部科学省との交渉もする必要性を示している。

 

 これは現実的かつ正しい指摘なのだが、個人的には日本銀行が統括する金融広報中央委員会との交渉が一番重要ではないかと思っている。

 というのも、同委員会は「金融リテラシー・マップ」として、「生活スキルとして最低限身に付けるべき金融リテラシー」の内容を具体化して、年齢層別にマッピングした(対応づけを行った)もの」を公表(2016年1月改訂)しており、具体的には「金融教育プログラム『学校における金融教育の年齢層別目標』」として、例えば「金融や経済の仕組み」などの分野別に、小学生低学年から高校生に至るまで学年別に習得すべき内容を細かく定義している。 

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学校における金融教育の年齢層別目標(金融広報中央委員会の資料)

 金融知識の社会普及についてすでに経験も実績もある同員会との調整なしで、金融庁がどんなに優れたテキストを作成、奮闘しても、世の中に普及するとは限らない。

 信託報酬の安い、投資家にとって有利な投資信託よりも、自分たちが関与する(評価に繋がる)投信を売りたがる金融業界の構図とそういう意味では似ていると言えないもない。

 ただ、委員会の顧問には金融庁長官もいるので、上からスジを通していけば大きな問題とはならないのかもしれないが。

 

 記事では最後に、お金の運用に関わる金融機関が「ビジネスをしている」ことの意味を伝えることの重要性を考慮し、「金融のみではない消費者教育の一環として教えるべきだろう」と指摘しているが、これは、正しい方向性を示してると思う。

 現在、消費者に直結した資格としては「消費生活アドバイザー」があるが、そのカバーする範囲は広く「金融商品」については、専門家とは格差があるのが実態だろう。

 ただ、彼らの持つネットワークを活用して、金融庁が新たに作成した「分かりやすいテキスト」を元に金融知識を深めてもらうという手法は検討の余地がありそうだ。

 

 いずれにせよ、内外の関係者との調整やテキスト作りで大変な仕事ではあるだろうが、「金融知識の普及」で正々堂々と社会貢献しているという点では、金融機関の店頭で良心の呵責に悩ませながら「手数料の高い商品を売り込む」よりもよっぽど「やりがいのある仕事」ではあるはずだ。

 

 最後に、この金融庁の職員募集だが、締め切りは12月4日の当日必着であること、それと募集しているのは「1名」ということを一応確認しておきたい。

 やりがいのある仕事は、競争率も高いのはどこの業界でも同じなのである。