如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

日本人の給料が安いとは言っても、いきなりの「転職」「独立」は・・・無謀

本人の給料がまるで上がらない決定的な要因(東洋経済オンライン)

坂口 孝則 : 調達・購買業務コンサルタント、講演家

 

 30代、40代のいわば稼ぎ頭ともいえる世代の給与は10年前に比べて大きく下がっている――日本人の給料が世界的に見て主要国よりも低い水準にある原因とその処方箋に関する記事「日本人の給料がまるで上がらない決定的な要因」が12月7日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

  

        f:id:kisaragisatsuki:20191207101559j:plain   

 

 記事では、国税庁の資料などを元に35歳から49歳までの世代の給料が10年前に比べて5%から10%近く減少していることを解説。

 その理由として、

  1. 日本の社会は「製造業」がベースにある
  2. 流動性が低い

 を挙げている。

 

 そして対応策として「本当に悩んでいるのであれば、転職でも独立でも、まずはやってみることを勧めたい」と、現在の職場からの離脱を勧めている。

 

 著者は、調達・購買業務コンサルタントの坂口孝則氏。メーカーで資材のバイヤーをされていたようだが、専門分野以外での著作もあるようだが、「調達」のプロではあっても、「人材」のプロではなさそうだ。

 

 記事を読んだ感想としては、日本人の30,40代の給料が安いことは確認できたが、その理由はやや説得力に欠ける。さらに解決策に至ってはやや粗雑な印象を受けた。

 

 1978生まれらしいので、年齢は41歳前後。まさに給料の安い世代のど真ん中に位置するわけで、同世代への応援メッセージと贔屓目に考えても、「まずは転職、独立をやってみろ」というのは、人手不足が叫ばれる現在とは言え、やや近視眼的なアドバイスに映る。

 

 まず、給料が安い原因として「製造業」が主力であることを挙げているが、ここで引き合いに出しているのは、著者が勤めていたであろう大手メーカーを前提にしている(中小企業も含まれるが)ように見える。

 

 確かに富士通やNECなどの大手製造業ではリストラの嵐が吹きまくっていて、給料は抑制されているだろう。

 ただ、GoogleやYahooなど大手のIT関連企業もソフトウエアを作り出し、提供するという点では製造業だ。これらの企業の給与水準は決して低くないだろう。

 EC大手のAmazonも元々は書籍の通販会社だったが、現在はオリジナルの映画コンテンツやスマートスピーカーなどを手掛ける製造業に近づいている(倉庫など現場の給料は安いらしいが)。

 

 要するに「製造業」だから給料が安いのではなく、旧態依然とした体制で、時代に合った商品・サービスを提供できないから業績が上がらず、結果として給料が安いのである。

 

 2つ目の「流動性の低さ」という理由についてだが、確かに「大手」の看板にしがみついて安い給料に甘んじている30、40代の中堅社員は多いだろうが、新卒でまだ自由に転職が可能な若手に比べて、30代ともなれば結婚して、子供もいて、数千万円の住宅ローンを抱えている人も多いはずだ。

 

 しかもよほど特殊な技能や社外に強力なネットワークがあれば別だろうが、大手企業の平均的なサラリーマンが転職で給料がアップするとはかぎらない。仮にスキルが評価されて「好待遇」で移籍したとしても、その事業が将来にわたって好調な業績を維持するとは限らない。

 

 さらに転職するとなれば、条件は厳しくなるかもしれず、今後の子供の教育、住宅ローンを考えれば、いっときの感情で「転職」「独立」するというのは、「挑戦」というよりは「無謀」と言うべきかもしれない。

 

 著者は「失敗しても生活保護や再就職支援などもあって、日本ではそう簡単に死ぬほどまで追い込まれない」と書いているが、これはやや就職事情を楽観視しすぎていると思う。単身で実力に自信のある人向けの「限定的な」メッセージだと思った方がいいだろう。

 

 とはいえ、現状の安い給料のままで将来が必ずしも安泰とは言えなくなった今の職場には不安もあって、人生設計に悩んでいる30,40代が多いのも事実。

 

 個人的に勧めたいのは「副業」だ。現時点ではまだ副業を認めている企業は少ないが、政府が「働き方改革」を進めている中で、厚生労働省は「モデル就業規則」を今年3月に改訂した。

 その第68条では「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とし、「裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であることが示されていることから、第1項において、労働者が副業・兼業できることを明示しています」と補足説明している。

 

 世の中の流れが「副業解禁」に向かっているのは間違いないのだが、企業サイドがその変化に追いつけていないのが実情だろう。

 現実に自分の勤める会社で認められていない「副業」を始めるのはリスクが大きい。ではどうするか?

 

 その答えのひとつに「将来のマネタイズを考慮して、無報酬で関心のあるビジネスに参画し、ノウハウを取得する」という手がある。

 この方法だと「現金収入」は増えないが、将来稼げる可能性のある「スキル」は身に付く。報酬が発生しないので、税務署や市役所に補足されることもないので、会社にバレることもない。考え方次第では、「現金」という有形資産ではなく、「スキル」という無形資産を受け取っているともいえる。

 

 報酬が発生しないと安心して仕事を任せられないという会社も多いだろうが、人手不足の現在、無報酬で手伝ってくれるなら有難いという「個人経営企業」はあるはずだ。

 

 このような提案する私も、数年前から無報酬である仕事をお手伝いしている。週末や帰宅後の空いた時間を利用しての軽作業だが、業界内の事情はある程度わかるようになった。まだマネタイズまでの具体的なスケジュールは立てていないが。

 

 以上をまとめると、現在の給料に満足していない人が、「転職」「独立」という人生の一大勝負に出るという手もあるが、まずは「副業」から始めるのが現実的ではないか、というのが私の結論だ。