如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

ネット通販、日本独自の商慣習を超えてD2Cは普及するか

日本の「ネット通販利用」がまだ遅れている理由(東洋経済オンライン)

劉 瀟瀟 : 三菱総合研究所研究員、カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員

 

 近年すっかり一般的となったと個人的に感じていたネット通販だが、米国、中国に比べるとその利用度はまだまだ低いらしい――この実情を解説する記事「日本の『ネット通販利用』がまだ遅れている理由」が12月12日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

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 記事では、米国では人口の72%が、中国ではインターネット人口の73%がネット通販(EC)を利用している一方、日本のEC利用率は35.9%に留まっているとし、その理由として、

  1. 小売業が消費者のEC習慣を育成してきた
  2. 返品がしやすく、消費者のECストレスを軽減している

 の2点を挙げている。

 

 また、最近のトレンドとしてD2C(Direct to Consumer)つまり 自社運営ECサイトやSNSで直接消費者する販売手法が注目されていることも紹介している。

 

 1については、具体的に11月に米国では小売り業界で「ブラックフライデー」が、中国ではアリババが作り上げた11月11日「独身の日セール(W11)」の存在がネット通販への顧客の取り込みに成功したことを引き合いに出している。

 

 日本でも、お中元、お歳暮、クリスマスなど販売促進のセール期間は昔からあるが、あくまで実店舗での売り上げ増を狙ったものが主流(百貨店の催事場でのお歳暮対応など)で、ネットを意識した戦略はあまり聞いたことがない。

 

 近年はAmazonが日本でも「ブラックフライデー」を実施するなど、機運は出ているようだが、追随する動きは鈍いようだ。

 私自身、Amazonのヘビーユーザーなのだが、通常行われている「タイムセール」と比べて特に魅力的な商品や価格を「ブラックフライデー」で見かけることはなかった感がある。販促効果が大きかったようには思えない。

 

 以上を考えると、何らかの”個別”セールをきっかけに、日本でネット通販の急拡大に繋がる可能性は低いだろう。利便性向上という観点からじわじわと浸透していくと思う。

 

 また日本には、生協(COOP)という独自の組合組織があり、昔から宅配事情を行ってきたという事情も影響しているかもしれない。日本生活協同組合のWebサイトによれば、2018年度の小売シェアは2.69%とここ数年足踏み状態だが、組合員数は2924万人と着実に増えている。

 

 2については、日本の返品対応が特に遅れているとは思わない。またしてもAmazonを引き合いに出して恐縮だが、Amazon.co.jpが発送する商品を顧客側の都合で返品する場合は未使用・未開封の場合100%、開封炭の場合は50%が返金される(原則、返送料は顧客負担)、商品のトラブル・不具合の場合は、返送料も含めて100%返金される。

 

 私自身、何度か商品の不具合で返品したことがあるが、返品専用のページに必要事項を入力して、バーコードの表示されたページを印刷して、商品と一緒に梱包するだけなので、大した手間ではない。

 ということで、返品にかかるストレスがさらに一般的なサイトでも解消されていけば、ネット通販の拡大要因にはなるうるだろう。

 

 もうひとつの注目点である「自社運営ECサイト」だが、個人的にはもっとも充実しているのはヨドバシカメラだと思う。

 ちなみに、通販新聞社の2017年度「ネット販売白書」によれば、売上高のトップは断トツでAmazonだが、ヨドバシカメラも2位に付けている。

 家電量販店では最も古くから通販を手掛けてきたが、最近では飲食品、医薬品、電子書籍など幅広く手掛けている。しかも電子書籍に至っては20%のポイント還元と他社を大きく凌いでいる。

 また、他の自社運営サイトECと異なり、自社で配送業務まで手掛けているという「強み」もある。

 余談だが、ヨドバシカメラは資本金3000万円という「中小企業」という立場を生かして、通常のポイント制度に加えて、年末までキャッシュレス還元5%を実施して、競合他社との差別化も強化している。

 

 ヨドバシは品揃えも豊富なので、月に何度かは商品のトレンド確認のために店舗に行くのだが、サービス内容も充実している。

 店内で無料WiFiが使えて他店との価格比較が自分のスマホで自由にできるうえ、実際に商品を購入しようと店員に相談すると、その場で自社のネットや他店舗との価格を調べてくれて、最安値での購入を勧めてくれるなど、その顧客優先の対応は同業他社とは比較にならない

 

 記事で最後に、丸井のショールーミング戦略やアマゾンジャパンの置き配など、日本でも「進化」していることを紹介している。

 

 高齢や単身の世帯の増加で、ネット通販には「追い風」が吹いているのは確かだろう。ただ、他国の仕組みをそのまま日本に当てはめても成功するとは限らない。

 商品の特性を考慮し、顧客の利便性、返品や宅配への安心度を高めていけば、ネットで買うのが当たり前になる時代は意外にそう遠くないのかもしれない。