如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

地方のマンションという業界内のスポット現象について一考

人口減の地方でも「マンション好調」のカラクリ(東洋経済オンライン)

一井 純 : 東洋経済 記者

 

 首都圏のマンション価格が高止まりし、販売が伸び悩む中、地方でマンションに動きが出ているらしい。

 12月16日付けの東洋経済オンラインに「人口減の地方でも『マンション好調』のカラクリ」というタイトルの記事が掲載された。

 

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 記事に出てくるのは、倉敷市の住居・商業複合施設、宮城県塩釜市と秋田県横手市の小型マンション、岡山駅に近いタワーマンションの4件だ。

 

 いずれも人口は、48万人、5.4万人、8.8万人、71万人となり、倉敷と岡山は50万人近い人口があるので、新幹線停車駅でもあり、それなりに需要はあるかもしれない。

 記事では、野村不動産が地方でのマンション開発を加速させていると伝えている。

 

 一方、他の宮城と秋田の2つのマンションはやや事情が異なる。どちらも人口は10万人以下で「戸建て」が主力の地域だ。

 それでもデベロッパーが手掛けたのには、地元でマンションへの需要が「溜まっている」という事情らしい。

 塩釜の場合は、市内の起伏が激しく、高台に建つ戸建てに住む高齢者などからより利便性を求める声が、横手市の場合、スキー場で有名は豪雪地帯ということもあり、雪かきが負担になる戸建て居住者のニーズが、それぞれあったようだ。

 

 ただ、この「地方でマンション建設」という動きが、今後急速に拡大する可能性は高くないと思う。

 野村不動産が地方でのマンション開発を進めるのは、首都圏のマンション価格が高騰し、普通のサラリーマンの手が届かない水準まで上がってしまった結果の影響が大きいだろう。

 しかも同社は他の財閥系に比べて住宅部門の比率が高く、首都圏のマンションの落ち込みを地方でカバーしたいという意図もあると想定される。

 

 もっとも記事にある2つのマンションの戸数は63戸と54戸と小規模。実際に開発したのは中堅デベロッパーだ。野村不動産が手掛けるには規模が小さすぎる。

 

 地元の「急こう配」や「豪雪」といった特殊事情によるシニア層の駅近マンションの購入には、一定のニーズがあるだろうが、記事にも「マンションは自営業者や公務員、士業など地方都市に住む高所得層からの引き合いが強い」とあるように、購入する層の厚みには欠けるという現実もある。

 

 実際に、マンションに住み替えようと戸建ての売却を考えても、現在の地方の土地価格の実勢を見る限り、新築マンションを買うための十分な資金とはならないケースも多いはずだ。

 一方で、マンション建築価格に占める比率では土地よりも建物の方が圧倒的に高いが、建築に伴う「建材」「人件費」の価格は、首都圏と大差がないので、結果として、マンション価格自体は首都圏の郊外物件とあまり違わないことになる。

 戸建ての実家を売ってマンションに移れる層は、想定以上に少ないのではないだろうか。

 

 一方の、倉敷の複合施設、岡山のタワマンは、人口も50万人規模以上そこそこあって、ニーズは期待できそうだが、記事ではこれにも「再開発」「補助金」という仕組みがあってこそだと解説している。

 

 駅前に古い民家や雑居ビルが乱立する地区では防災や交通面で再開発が必要なのは理解できるが、岡山のような補助金とタワマンを前提にした開発には、一時的な盛り上がりは見せても、数十年後の人口・世帯の減少を考えると、入居者の減ったタワマンが「寂れた都市の象徴」になっている可能性すらある。

 

 実際に「神戸市がブチ上げた『タワマン禁止令』の波紋」など、日本全体としてタワマンは回避される傾向にあるだけに(当ブログでも記事化)、この岡山の事例は、隣接する兵庫県の神戸市とは対照的な対応だと言えるだろう。

 

 個人的には、地方でもコンパクトシティ化を推進するための住民を市街中心部に集める「身丈に合ったマンション」の建設には賛成だし、補助金も使うべきだとは思う。人口が集中すればゴミ収集、水道供給などのコスト削減が可能になるからだ。

 地震などの自然災害発生時への対応も、迅速かつ効率的に行うことができるだろう。

 

 地方都市のタワーマンションが「一時の可憐な花」だとすれば、地元の事情に配慮した小規模マンションは「地味ながら根付いた草」といっては言い過ぎだろうか。