如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

五つ星ホテルは日本の観光業の仕組みを変える「きっかけ」になる

政府「高級ホテルを50カ所」に反対する人の盲点(東洋経済オンライン)

デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長

 

 東洋経済オンラインではおなじみの小西美術工藝社社長デービッド・アトキンソン 氏が、12月17日付で「政府「高級ホテルを50カ所」に反対する人の盲点」というタイトルの記事を投稿した。

 事の発端は、菅義偉官房長官が7日「各地に世界レベルのホテルを50カ所程度、新設することをめざす」と発言したこと。

 

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 記事によれば、問題視されているのは「財政投融資を活用し、日本政策投資銀行による資金援助などをするという点」のようだ。つまり税金を高級ホテル建設に使うべきかという指摘だ。

 対して、デービッド・アトキンソン 氏(以下著者)は、海外からの富裕層を招くことが日本の観光業の隆盛に繋がる理由を「合理的」に解説していて、今ひとつ論点がかみ合っていない面もある。

 

 前者が、税金の使い方という財政面から「方法論」を展開しているのに対して、著者は高級ホテルが日本の観光業の付加価値化を高め、生産性も向上するという「結果論」を重視しているからだ。

 

 個人的な感想を言えば、著者の意見に賛同したい

 日本に外国人向けの高級ホテルが足りないのは事実。記事によれば五つ星ホテルは日本には32軒しかないのに対して、アメリカには755軒、インドネシアにはバリ島だけで42軒もあるという。

 

 これは、これまでの日本の観光業が歴史的に「国内需要」しか相手にしてこなかったツケが、近年の訪日外国人の急増で表面化したといっていいだろう。

 

 日本にも有名温泉地に高級旅館と呼ばれる一泊2食で10万円クラスの宿泊施設はあるが、これも主たる顧客は国内の富裕層で、1泊もしくは2泊程度しか想定していない。提供される食事が多くの場合、朝夕共に2つのバラエティしかないことがその証拠だ。

 これでは外国人客が好むとされる「長期滞在型」の宿泊には対応できない。

 

 中国人観光客は、東洋経済オンラインの過去の記事「中国人が山ほど金使う「日本観光」の残念な実情」にもあったが、富裕層は「1週間程度の滞在で、1人当たりの消費支出は平均200万~300万円にも達する」そうだ。

 彼らの宿泊地の選択基準は「価格」ではなく「満足度」であり、納得できるのなら大金を出すことを惜しまない。

 

 日本政府観光局(JNTO)の訪日外国人の推移を見ると、韓国は7月以降激減しているが今年前半前までは中国と並んでトップ集団に入っていた。

 ただ、観光の場合「対馬への日帰り旅行」が多く、消費金額も少ないという側面があり、来日数の増加が観光収入の増加にあまり貢献していないという指摘も一部にある。

 

 現状だけ見れば、確かに九州など韓国人観光客を目当てに商売をしてきた関係者には厳しいだろうが、これは逆に「韓国」への依存度を低くするいいチャンスでもある。

 

 依存するのは「韓国」という特定の国からの観光客だけの問題ではない。特定の「観光地」に人気が集中している現状も解消させる必要はあるだろう。

 

 京都を筆頭に有名観光地は外国人で溢れ、「観光公害」のレベルまで達している。京都の祇園では「観光客のスマホにマナー順守に関する情報を自動配信する実証実験を始める」という事態にまで発展している。

 

 全国各地に五つ星ホテルを拡充することで、この外国人観光客の「量」と「質」の問題は大きく改善するはずだ。

 

 これまでの日本の観光政策は「とりあえず日本に来てください」という観光地として日本を知ってもらうことが優先され、数年前まではそれが通用したのは事実。

 これが「インバウンド効果」などで、中国からの買い物目当ての観光客が激増し、そのうちの一部がリピーターとして訪日している結果、現在の膨大な観光客が維持されている側面は大きい。もちろん、北米、欧州も順調に伸びてはいるが。

 

 これからは「宿泊でも飲食でもお金を使ってください」を意識したスタイルに変換していくべきなのだろう。

 言い方は悪いかもしれないが、観光客を迎える側(観光地のインフラ)で、来てほしい客を選別する時代に入ったのだと思う。

 

 日本の地方にはまだまだ埋もれた名所・旧跡が多いはず。それらを「短期格安ツアーの低消費観光客」に奪われる前に、五つ星のホテルなど整備して、「プライベートで長期滞在する上客」を囲い込むことが有効策ではないだろうか。