氷河期40万人「ひきこもり」支援の切実な現場(東洋経済オンライン)
野中 大樹 : 東洋経済 記者
昨年内閣府が発表した調査「生活状況に関する調査」によると、40歳から64歳までの引きこもりは推計で61万3000人。このなかにはいわゆる就職氷河期世代が含まれる。彼らの現状をレポートする記事「氷河期40万人『ひきこもり』支援の切実な現場」が20日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
記事は本日発売の特集「氷河期を救え」の内容と被るが、一般人の想像するいわゆる「引きこもり」とは異なる現状を紹介している。
最初の事例は「RPGナイト」。これはオンラインRPGなどに没頭している引きこもりを対象に、彼らだけの世界を提供しようという試み。人とのコミュニケーションが苦手な彼らにも「得意分野」なら自己表現が可能ではないかという考えから実現した。
もっとも、現場では集まった者同士が「会話」を楽しむことは少ないようで、あくまで「RPG愛好家」の深夜の集まりの場となっている。
この活動をどう評価するかは意見の割れるところかもしれないが、個人的には「現実社会との接点を持つ」という意味で、引きこもりからは確実に「一歩」踏み出すきっかけ作りになっていると思う。
自宅の一室で一日中ゲームに没頭している人にとって、外に出て人に合うことのハードルは決して低くないはず。であれば、内容はどうあれ、まずは外界に居場所を作ることは方向性としては正しいと思う。
次に紹介されるのは、「自宅での就労支援」。高三で引きこもりになった彼女は、自宅で動画編集の仕事を1本1000円で請け負っている。認定NPO法人・育て上げネットの就労支援プログラムで講義を受けて、仕事を得たそうだ。
こちらは最初の事例で上げた「外」に出るのを目的とはせず、あくまで自宅でできる仕事を見つけ、就労支援を目的にしている。
先の「生活状況に関する調査」でも、引きこもりとなったきっかけで最も多いのは「退職した」こと。つまり職場で何らかの事情があって辞めざるを得なくなった人が多数を占めている。
彼らは「仕事をしたくない」のではなく「会社に行くことができない」のであって、自宅で自分にできる仕事であれば、こなすことは可能だ。彼女も「私にとっては自分のペースで生きることの方が大事だった」と説明している。
最後に事例は、先の「育て上げネット」の卒業生を従業員として雇用しているIT企業だ。この会社はパソコンの初期設定を手順書に沿って一人で進める作業が中心。ただそれでも他人と比較して「自分にはできない」と悲鳴をあげて、インターン2日目から出社しなく人もいるそうで、この場合、担当の取締役が「育て上げネット」と連消してサポート・支援するようだ。
ここまで行けば「会社で仕事をする」という意味で、社会復帰できていると考えていいだろう。すくなくとも「引きこもり」状態ではない。
この取締役は「孤立してきた分だけ会社への帰属意識や所属意識が強い。だから最初のハードルを越えられるよう支えていくことが大切なんです」と解説している。
以上、引きこもり支援の具体例を3つ紹介したが、共通しているのは「引きこもりの自己承認欲求」をいかにサポートするかだと思う。
言い換えれば、「自分の存在価値を他者に認めてほしい」と感じていながらも、行動に移せない引きこもりが多い訳で、共通の趣味を持つ人での「場」の提供、一人自宅で作業できる「仕事」で社会との接点を持つ、比較的単純な作業で「現実社会」と向き合う―――いずれも自宅に引きこもっている人に対する支援策としては、現実的な内容だと思う。
個人的には、「引きこもり」という状態よりは「社会からの断絶」という事態の方が問題だと思っている。
ネット環境を生かしたデバッグなどプログラム関連の仕事などは一人で集中的に取り組んだ方が効率はいいはずなので、支援策をより拡充すべきだろう。
働き方改革の影響もあって、「仕事は会社で」は常識ではなくなりつつあり、在宅勤務は急速に普及してきている。
この流れに沿って「引きこもり」への就労支援も強化できれば、世間の引きこもりを見る目も変わってくるかもしれないし、何より引きこもりの「承認欲求」が満たされることの効果は大きいだろう。