如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

東証一部上場企業はそんなに偉いのかーー市場改革は急務

東証改革でも「ゾンビ企業」が半数残留の不可解(東洋経済オンライン)

松岡 久蔵 : ジャーナリスト

 

 東京証券取引所が2022年に株式市場を再編し、新たな上場基準を設けるうふぉきについて、現状の課題を指摘する記事「東証改革でも『ゾンビ企業』が半数残留の不可解」が23日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

               f:id:kisaragisatsuki:20200122073633j:plain

 著者はジャーナリストの松岡久蔵氏。経歴を見ると、地方紙勤務を経て現在はフリーで、マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバーしているらしい。証券、金融関係に特に強いという訳ではなさそうだ。

 

 記事では、今回の市場改革の目玉は「現在の1部市場にあたるプライム市場の新規上場基準は100億円。TOPIX(東証株価指数)についても、算出対象を1部市場の全銘柄から変更し、新指数に切り替える」ことだと指摘している。

 市場改革の詳細については、金融庁のWebサイト「金融審議会市場ワーキング・グループ 市場構造専門グループ報告書(案)」にその方向性が書かれているので、参照されたい。

 

 最大の注目点は、1月9日時点で第1部に上場している会社が2160社と全体(3704社)の58%を占めている「歪な現状」を改革するために、新たな時価総額基準を設けるということだろう。
 本来であれば、市場構成は第一部上場会社がピラミッド構造の頂点に位置し、そこを目指す大多数の第二部市場などの上場銘柄などが市場全体を構成するというのが望ましい姿のはず。現状はこれが「逆ピラミッド」になっている。

 

 また、現在の第一部市場は、プライム市場に名称を変え、その上場基準も単純に発行済株式数に株価を乗じた数値ではなく、市場に流通している株数をベースにしたものに置き換わるようだ。


 先の金融庁の資料によれば「現在、市場第一部に直接上場する際の時価総額の基準は、250 億円となっている。また、上場時の流通株式比率の基準は、35%以上となっている。これらを踏まえると、新たな定義による流通時価総額の基準は、100 億円を目途に検討する」(3ページ目の注釈)と書かれている。

 記事では、この基準によれば「数百社は新基準に届かない」という金融庁のコメントを引用している。

 

 個人的な意見を述べれば、第一部市場から除外されるのが数百社というのは、まだかなり甘い気がする。イメージとしては第一部市場は市場を代表するトップ企業群なのだから、市場全体の多くても10%、欲を言えば5%程度があるべき会社数ではないだろうか。

 仮に5%とすれば対象は185社となり、2500社以上がプライム市場からは除外されるが、185社は本物の優良銘柄群として、今までと比べ物にならない高い評価を受けるはずだ。

 

 そもそもの話で言えば、上場企業、マスメディアを初め、就職希望者や株式には薄い一般人まで「東証一部上場」という看板を高く評価しすぎていたことも問題だろう。

 確かに、会社の知名度や信用の向上に繋がり、融資や人材採用に貢献するという効果はあるのだろうが、不正な不動産融資で信用が大きく失墜したスルガ銀行(8358)やTATERU(1435)は依然として東証一部に上場している。
 身近な例では、音響機器のパイオニア(6773)が、業績不振によって外資に買収され、昨年3月に廃止猶予期間を経て上場廃止となった。

 

 記事では、東証一部の会社が増えたのは、中国の取引所との時価総額競争の結果、上場基準が緩和されたことが影響していると書かれているが、現在の「東証1部上場」という看板は、以前ほど世間に通用しなくなってきているのではないだろうか。

 

 こうしたなかで、株式上場のメリット・デメリットを考慮した結果だろうが、上場しない有名企業も少なくない
 身近なところでは日本生命保険、サントリー、竹中工務店やヨドバシカメラなどがある。いずれも会社組織の改編が必要だったり、子会社を上場させているといった事情はあるが、最も大きな要因は「不特定多数の株主の意向に配慮しない」自由な経営ができるということだろう。

 ディスクロージャー(情報開示)も最低限で済むなどメリットがある一方で、株式公開によって資料作成や株主総会の開催など経常的にかかるコストは決して安くない。

 

 今後の展開だが、仮にプライム市場に移行できない会社が数百社に留まったとしても、対象企業の評価が落ちるのは避けられないだろう。株価は言うまでもなく、資金や人材の調達に影響が出るだろうし、上場にあたって幹事を務めた証券会社からも取引所への不満が爆発するかもしれない。

 

 ただ、この市場改革が目指している方向性は決して間違っていない。本来第一部市場に存在してはいけない企業が、堂々と上場している現状が異常なのである
そしてその責任は、上場基準を緩和した取引所と、見掛け倒しの側面もあった東証一部という「看板」を深く考えずにビジネスに利用してきた市場関係者にもある。

 

 ここは、これまでの反省も含めて、確固たる信念に基づいた健全な市場改革の実現を東証には強く望みたい。