如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「酒を飲まない」のは、自分の価値感を重視する人の選択

「酒を飲まない人」が、いま日本企業で「注目」されている意外なワケ(マネー現代

藤野 英人 レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役社長

 

 酒を飲まないという選択をする人が増えている――この事例を紹介しながら、日本でも個人が「集団」から「個人」を優先する傾向が高まっていることを解説する記事「『酒を飲まない人』がいま注目されるワケ」が1月31日付のマネー現代に掲載された。

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 記事のタイトルからは、「あぁ、若者の酒離れの話ね」と想像してしまいそうだが、この記事の本質は日本人の「気質」が変化しつつあることを説明するための事例として「酒を飲まないこと」を引き合いに出した点にある。

 

 著者は、独立系資産運用会社「レオス・キャピタルワークス株式会社」の代表取締役社長・藤野英人氏。会社は最近注目されている「ひふみ投信」の運用会社といった方が分かりやすいかもしれない。要するに藤野氏は資産運用のプロである。

 

 記事は冒頭で、藤野氏が昨年フェイスブックで下戸の人たちが集まれる場として「ゲコノミスト お酒を飲まない生き方を楽しむ会」というグループを立ち上げ、現在2500人近いメンバーを集めたことの紹介から始まり、続けて「お酒を飲まないことをポジティブに考える層が厚みを増しているように思います」と指摘している。

 

 とまあ、ここまでは各種メディアで伝えられた若者中心の「酒離れ」の内容とさして変わらないのだが、著者はここからプロの「投資家」としての立場から「酒」に対する企業・社会の変化を解説している点にオリジナリティがある。

 

 例として、企業が忘年会を開催しなくなったのは、「働き方改革への意識の高まり」が背景にあるとし、昨年「忘年会スルー」という言葉が席巻したように、これまで「参加せざるを得ない」雰囲気に包まれてきた職場の忘年会が、企業・社員の間で「強制的な参加」を問題視する動きが強まったことが影響していると分析している。

 

 個人的な話で恐縮だが、私の勤める会社では会社や職場単位での忘年会は5年近く前からなくなっている。不景気で宴会などに時間もおカネもかけられないという事情もあっただろうが、私が新人の頃は毎日のように職場の先輩に連れられて居酒屋でわいわいやっていた社員の間での「飲み会」もほぼ消滅した。

 

 記事の言葉を借りれば「日本の企業や個人がより主体的にものを考えるようになってきたことの表れ」ということだと思う。

 

 昨年来、「終身雇用は維持できない」という発言が経済界から相次いで聞かれ、50代後半が対象だったリストラの対象年齢も40代まで低下している。それも富士通、NECといった大企業の大規模リストラが目立ってきた。

 加えて、年功序列の賃金制度も崩壊しつつあり、実績を上げなければ年収の減額は必至の会社も増えた。人事制度も年下の上司、年上の部下は当たり前になりつつある。

 

 こうなると物事の判断基準や人生の価値観は、自分自身で選択、決定せざるを得なくなる訳で、これまでのような「会社任せ」のキャリアプランでは、転職が一般化していく今後の労働市場では通用しなくなる。この傾向は今後も一層強まるだろうし、同時に個人の「実力」が客観的に評価される時代になることを意味する。

 

 私自身はあと数年で60歳定年なので、何とか逃げ切れるのかもしれないが、その後の再雇用は1年ごとの契約となる。65歳まで継続雇用される保証はないことを考えれば、やはり手持ちのカード(スキル)は多いに越したことはない。

 具体的にはまだ公言できる段階ではないのだが、シニア層でもこれまでの経験を生かせる公的な資格取得を私の今年の目標にしている。

 

 厚生労働省の「平成22年簡易生命表」によれば、65歳まで生きた男性の平均余命は18.86年で、84歳まで生きる可能性が高い。引退後の20年間を「のんべんだらりん」と過ごすのは、もったいないと思う。ベストセラーのライフシフトではないが、人生の最終章は多くの日本人の場合、やはり「仕事」をすることが一番の生きがいになるのではないだろうか。

 

 「酒を飲まない」という傾向から、「個人が主体的に生きるようになった」という結論を導くのは、やはり資産運用のプロは「木を見て森も見る」ことができるのだと感心した。