「婚活」マッチングに銀行が乗り出す深い事情(東洋経済オンライン)
三上 直行 : 東洋経済 記者
銀行に対して、まだ一般人は「信用」できる民間企業のひとつとして認知してはいるが、貸出先の減少、超低利金利の継続で、本業が厳しいのは巷で言われている通り。
やや古い記事だが、東洋経済Plusの2017年7月8日号には「収益柱の預貸業務で稼げない! 7割の地銀が実質赤字」という記事が掲載されたし、昨年2月には日本経済新聞が「地銀3行、赤字転落 4~12月 低金利で収益力限界」と報じている。
メガバンクを中心に大規模なリストラが計画、実行されているが、これらはコスト削減を狙ったもので、言わば「後ろ向きの対応」と言えなくもない。
こうしたなか、愛知県ではトップの地銀である名古屋銀行が「婚活」事業に参入したことを伝える記事「『婚活』マッチングに銀行が乗り出す深い事情」が2月5日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
記事によれば、名古屋銀行は2月14日に独自の婚活パーティーを開催する模様。ここに至るまでには2018年に婚活サービスを展開するIBJとの業務提携が貢献したようだ。
本業で稼げないなら、新たな事業への参入というのはどこの企業でも考えることだが、この銀行の手掛ける婚活サービスも新規事業への参入であり、少なくとも「前向きの試み」であることは間違いない。
そのきっかけは、以前から銀行に持ち掛けられていた取引先企業からの「うちの息子にいい相手はいないか」といった相談に対応するために、「事業承継支援の一環」として立ち上げたことにある。無論、婚活サービスが利益に大きく貢献する訳ではないが、地元企業との絆を強めるという中長期的なメリットは小さくないはずだ。話題になれば、銀行のイメージアップにも繋がる。
この展開を簡単に言い換えると、銀行が本業の「お金の融通」に加えて「人材の融通」にも対応することで、業容を変化させていると見えなくもない。
もっとも人材についてはこれまでも、銀行は40代から出世競争から外れた行員を取引先に供給してきたという事実はあるが、これは「融資」という紐付きの人材提供だった側面は否めない。企業側にとっても、金融機関から要請があれば受け入れざるを得ないという事情があった。
これに対して、今回の「婚活サービス」は逆に企業からの要請に対応するという内容であり、しかも取引先ではない一般人まで対象にしているという点で、かなりの本気度が感じられる。
しかもこの婚活パーティー(恋するバレンタイン)は30代の男女10名程度の限定とはいえ、参加費用は無料だ。記事によれば提携先のIBJに個人が直接申し込むと初期費用が16万5000円以上、月会費は1万5500円かかるので、これは小規模とはいえ名古屋銀行の損益度外視の大盤振る舞いである。
個人的には、本業で利益が出ないと文句ばっかり言って何もしない他の多くの地銀よりも、遥かに前向きで評価できる対応だと思う。
もともと地方において銀行は、地元の信用は高く、就職先としても人気は根強い。今回の婚活サービスに限らず様々なコミュニティの形成に貢献できる余地は大きい。しかも、大抵の地銀が、市街の一等地に本店を構えており、その存在感を生かさない手はない。
今後、キャッシュレス化の進展、ATMの削減などで銀行への逆風は強まる一方で、何も手を打たなければ顧客の銀行離れは止まらないだろう。
これまでのおカネを融資のための「メインエンジン」とする体制から、各種顧客向けサービスのための「潤滑油」にするような発想の転換が銀行には必要なのかもしれない。