如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

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悩む住宅問題、現役時代は賃貸で住み替え、引退後に現金一括購入がおススメなワケ

「持ち家か賃貸か」老後に困らないための正しい考え方(ダイヤモンドオンライン)

深田晶恵

 

 住まいに関する問題で過去も現在も最も悩ましいのが、過去も現在も「持ち家か」「賃貸」かの選択である。

  

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 この課題については、これまでにも様々なメディアで専門家が持論を展開してきたが、現在に至るまで「決定的な結論」は出ていない。総じて言えるのはSUUMOなど住宅業者寄りのメディアは若いうちの物件購入を進める傾向にあり、一部のファイナンシャルプランナー(FP)などが賃貸を勧める傾向が見られるといったところだろうか。

 

 こうしたなか、著名なファイナンシャルプランナー(CFP)で生活設計塾クルー取締役の深田昌恵さんの「『持ち家か賃貸か』老後に困らないための正しい考え方」というタイトルの記事が、2月6日付けのダイヤモンドオンラインに掲載された。

 

 本人は仕事柄「購入と賃貸とどちらがトクですか?」という質問を受けたり、このテーマで雑誌の取材を依頼されるそうだが、「これまで引き受けたことはない」そうだ。なぜならば「試算条件の設定次第で結果が大きく変わるから」。

 

 これは私も共感する住宅に関する認識のひとつである。細かい設定条件などは記事を参照して頂くとして、簡単に言えば「変動要因が多すぎて、万人に当てはまる正解はない」ということだ。購入の場合は、金利、返済期間など、賃貸の場合は更新料や引っ越し代などが該当する。

 

 とはいえ、記事では後半で、「住宅ローンを組んでマイホームを購入することは、老後の家賃を前払いするようなもの」として、年金生活をベースにした将来に不安を持つ人に対して、購入という選択肢もあることを解説している。

 確かに現在の年金制度が将来にわたって維持されると考えている人は少数派と言っていい。支給開始が70歳になるのはもはや現実的には既定路線だし、支給額も減額は必至。目減りする年金から賃貸料を負担するのは、よほどの預貯金がなければ厳しいだろう。

 

 著者は、購入する際には購入する場合は60歳までの返済が望ましいが、現在の物件価格の水準からみて65歳までとするのが月々の返済額から見て現実的としている。まあ、これも間違ってはいない。もっとも住宅支援機構によれば「完済債権の平均経過期間」は2018年度で15.8年と意外に短いのだが(P11)。

 また、記事で著者は「持ち家推進派」でも「賃貸推進派」でもない、と強調しているが、個人的な感想を言えば、はどちらかと言えば「購入も考慮した貯蓄が望ましい」という、やや持ち家推進派ではないかと思う。

 

 私自身の住宅問題に対するスタンスはここ5年ぐらい変わっていない。それは「現役時代は多少不便でも賃貸に住んで貯蓄に励む。現役引退前後に現金一括で持ち家を購入する」というものだ。

 

 この理由だが、まず若い世代に住宅を購入してしまうと身動きが取りにくくなるという点が挙げられる。具体的には、転勤や子供、周囲の住民など環境の変化に対応しにくいこと。

 そして、物件が地震や火災などで被災した際に生活を立て直すのに大変な労力がかかることが挙げられる。また、マンションの場合管理組合という面倒かつやっかいな存在もある。

 これが賃貸なら、生活環境に問題が生じたらさっさと別の場所に住み替えればいい。所得が減少したら安い家賃の物件に引っ越せばいいだけの話だ。地震や家事の場合も、契約を解除して住み替えれば済む。環境の変化に柔軟に対応できるのが賃貸の最大のメリットだ。

 

 とはいえ、現役引退後に年金から賃貸料を毎月支払うのは確かに厳しいのも事実。そこで、賃貸生活時代に貯め込んだ貯蓄で、物件を現金一括購入するというのが私の持論である。

 貸料を支払いつつ貯蓄をするのは困難というのは分かるが、いまは積み立てNISA(少額投資非課税制度)もあるので、長期の資産形成の手段は少なくない。加えて言えば、給料天引きで貯蓄するのが基本だ。日々の生活費から残った額を貯蓄などというのは私自身の経験上からもまず失敗する。

 

 外部環境から見れば、今後中長期的に、都市部を含めて人口、世帯数は減少するのが確実なうえに、新規住宅着工件数は減ることはあってもゼロにはならない。総務省の「平成 30 年住宅・土地統計調査」によれば、2018年時点で過去最高の13.6%だが、この比率は今後さらに上昇することは間違いない。

 

 つまり住宅の需要が減る一方で、供給は続くのだから空き家は増える。結果として物件の価格は下がると言わざるを得ない。

 ちなみにすでにこの傾向は首都圏近郊でも出始めており、郊外のバス便物件ならば1000万円を割り込む物件も珍しくなくなっている。

 この価格崩壊のエリアは、年を追うごとに首都圏中心部に向けて拡大していくのは必至だろう。20年、30年後には、築10年ぐらいで駅から徒歩10分以内の物件が数百万円で買える時代になっている可能性もある。

 しかも定年時には子供もすでに独立しているはずで、夫婦や一人暮らしなら部屋数も少なくていいので、選択肢も広い。

 

 その頃はマンションの寿命も普通に50年以上には伸びているはずだから、老朽化に伴う大規模修繕や建て替え問題が起きる前に本人の寿命が先に来るはずだ。

 戸建てなら管理費と修繕積立金もかからないが、定期的な外壁工事や庭の手入れが必要なほか、2階建てなら階段の上り下りは高齢者にはキツイかもしれない。

 

 以上から結論をまとめると、記事の最後にあるように「重要なのは、わが家(自分)にとっての買い時なのかどうか」ということだ。

 もちろん「住宅はプライスレス」という人もいる訳で、精神的な満足度を得られて家族が幸せな生活を送れるなら、多額の借金も厭わないという人がいてもいい。

 

 ただ、その際にも資金計画は慎重にも慎重を重ねた方がいい。個人的にもっとも危惧しているのは、湾岸のタワーマンションを夫婦共稼ぎの共有名義で、借入の上限額を35年の変動金利フルローンで購入するような世帯だ。

 この場合、かなりの確率で将来の生活基盤は脆弱だと言わざるを得ない。どう考えてもリスク要因が多すぎるのだ。

 

 タワーマンションへの憧れやそこから見える眺望の優越感は一時的なものだが、その背後にある住宅ローンと生活は一生続くのである。購入を検討している人は、とりあえず一歩踏みとどまって「未来の家計」を熟慮した方が良いだろう。