如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

【書評】市民が市政、議会に関与する動きが広まっているという現実

自治体職員のための住民と共につくる自治のかたち―人口減少、無関心、担い手不足を乗り越えて―(第一法規)

相川 俊英 ()

 

 今回は、久々に自分の書いた「書評」を取り上げたい。もともと本ブログはAmazonに投稿した書評を転用することで昨年4月に始まったが、記事の中心は書評からその後東洋経済オンラインを中心とする記事への見解へと移っている。

 

 今回は初心に帰って、最近読んだ本「自治体職員のための住民と共につくる自治のかたち」の紹介をしたい。テーマは「住民参加型」の自治である。

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 私自身は数年前まで選挙や市政などにはほとんど興味はなく、市長や市議会議員の選挙で投票に行かないことも少なくなかった。

 ただ、役職定年を迎えて比較的時間に余裕でるようになったことで、どういう訳か地方自治への関心が急速に高まった。

 昨年の選挙では政治家としての信条に共感できる候補者への個人的なお手伝いもしたし(無事当選)、現在は市のとある審議会の委員も務めている。3か月ごとに行われる市議会も一般質問を傍聴するようになった。ここ数年で、議員、行政、議会への理解はだいぶ深まったように思う。

 

 今後、定年を迎えて「何か新しいことに取り組んでみたい」という人々が増えるのは確実であり、そのなかの一部の人は、市政や議会にアプローチするようになるだろう。

 なぜなら、自分とは全く関係のなかった分野に足を踏み入れることで、「まったく新しい世界」が見えてくるからだ。これが実体験した自分の見方だが、政治、行政の世界は想像しているよりも「ずっと新鮮で面白い」のである。

 

 さて、話を戻すと、今回取り上げる本のタイトルは「自治体職員のための住民と共につくる自治のかたち」だ。著者は地方自治ジャーナリストの相川俊英氏。地方自治をテーマとして全国各地を四半世紀以上にわたって取材し続けるという、いわばその分野のプロである。

 

 ここからは本の紹介に入るが、まず最初に「住民協議会」「市民フリースピーチ制度」について。この言葉の正確な意味がすぐに分かる人はほとんどいないだろう。

 

 これらのキーワードは、行政が政策を企画、実行していく過程で、住民にもメンバーとして参加してもらい、行政、議員、住民がお互いに意見を言い合い、聞きながら政策を実現していくための「仕組み」である。

 

 本書は、「住民」「議会」「選挙」「若者」という4つの章を立てて、各分野で独自の取り組みを実現している14の自治体・民間組織の事例を紹介している。

 各章には事例の具体的な説明の後に、関係者へのインタビューも掲載されていて、改革に取り組んだ経緯などがわかる。

 

 どの自治体・民間組織にも、その取り組む姿勢として、行政と議会によって「固定化」「形がい化」した市政全体を、住民の意見を取り入れることで、「活性化」し、3者の協力関係を強めて、より良い形に変えたいという強い意志が感じられる。

 

 こうした動きの背景には、有権者の選挙への関心が中長期的に薄らいでいるという事実への危機感があるのは確かだろう。

 総務省の「目で見る投票率(平成31年3月)」によれば、投票率は昭和20年代から一貫して低下傾向にあり、平成27年の統一地方選挙の投票率は、市区町村長選挙で50.02%、市区町村議会議員選挙で 47.33%に留まっている。有権者の半分しか投票していないのだ。

 

 著者はその理由として、第一に政治への「完全無関心派」の存在を挙げたうえで、他の投票に行かない大きな要因として、「地方選の場合、候補者の情報があまりにも少なくて『誰を選んだらよいのかどうにも判断がつかない』という由々しき現実がある」(P106)と指摘している。

 

 投票しなければ、行政・議会に文句を言う資格はないと個人的には思うのだが、現状の選挙制度では、街角の「ポスター」と投函される「選挙公報」、それに候補者名を連呼するだけの「選挙カー」しか候補者との接点がほぼないのも事実。これでは投票意欲が盛り上がらないのも仕方がない面はある。

 

 公職選挙法の不備が低投票率の一因なのだが、こうした制約のなかでも「投票率向上運動」に取り組んだ千葉県市川市や、住民主導で「公開討論会」を実現した東京都小平市などの事例は参考になる。

 

 自治体を構成する3者のなかで、今までは地味な存在だった「市民」が、改革を求めて全国で動き始めていることを知ることができる良書だと思う。

 

 以上が書評であり、以下は議会に関しての個人的な意見だ。

 繰り返しになるようで恐縮だが、定年などで比較的時間に余裕のある人は、ぜひ一度地元の市議会を傍聴することを勧めたい。私には昨年の選挙を通じて個人的に知り合いの議員が数名いるので、その議員の一般質問を欠かさず傍聴するが、特に知り合いの議員などがいない場合は各会派の代表質問でもいいだろう。

 時期的にはどの地方議会も3月議会が2月末あたりから始まるはずだが、自治体によって異なるので、市報や市のWebサイトで確認してほしい。

  納税者、有権者として傍聴する権利はあるのだから、これを生かさないのはもったいない