如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

読書しない人が増えている「理由」は5つだけではない

「若者の本離れ」がこんなにも加速した5つの理由(東洋経済オンライン)

角田 陽一郎 : バラエティプロデューサー

 

 「最近の若者は本を読まない」――。この文章から始まるいわゆる「本離れ」の理由について分析した記事「『若者の本離れ』がこんなにも加速した5つの理由」が3月1日の東洋経済オンラインに掲載された。

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 この現象自体はかなり以前から各種メディアで伝えられていて、目新しいテーマではない。例えば2018年2月26日の日本経済新聞電子版では「大学生『読書時間ゼロ』半数超 実態調査で初」と報じられている。これは当時、結構話題となった。

 

 だが東洋経済オンラインの記事の面白いのは著者が、実際に「本を読まない」理由を、インターネット動画界隈で活躍する20代半ばの起業家で、頭もいいがほとんど本は読まないと(著者が言う)いう人に、直接インタビューしている点だ。

 アンケート調査などで大まかな傾向などは分かるが、個々の持つ本離れの背景を具体的に聞き出すという視点が新鮮だし、会話のやりとりもメリハリがあって良い。 

 さて詳細は記事を読んで頂くとして、「本を読まない理由」を著者は以下の5つを挙げている。 

      1.「つらいから」  

      2.「時間がもったいないから」

      3.「楽しくないから」

      4.「書き手が知らない人だから」

      5.「ネットのほうが便利だから」

 

 これらの理由から、著者は「読書のよさをいくら言われても、本自体にアクセスすることが面倒なのです」と、本離れを解釈し、分かりやすい身近な例として「旅好きな人に『海外旅行は楽しいですよ」と言われても、成田空港に行くのが面倒だからという理由で行かないような』ものと説明している。

 

 記事全体の印象としては、各種アンケート結果の具体的な回答例を見たような「なるほど」と思える内容だった。ある程度予想はしていたものの、実際に著者の言う「仕事はできるが本を読まない人」の本音を聞けたのは参考になった

 

 理由として挙げられた5つだが、個人的には「つらい」「面倒」「不便」という項目と内容から考えて、以下の3点を追加したい。

 まず、読書はこちらからアクセスする「攻め」の姿勢が不可欠だが、ネットやゲームはどちらかと言えば「受け身」の姿勢で対応できるという点。

 しかも本の場合は、字面を追うだけでは読んだことにはならず、自分なりに咀嚼する必要がある。一方、ネットニュース等はすでに分かりやすい形に集約されているし、ゲームも初心者であればチュートリアルや親切な人からアドバイスをもらえることも多い。

 

 次に挙げたいのは、読書にはおカネがかかるということ。多くの単行本は2000円以上するし、新書でも1000円近いのが現実。数冊買えばすぐに1万円近い出費となる。図書館では新刊は人気で順番待ちだし、そもそも身近に図書館がある人ばかりではない。

 一方、ネットは情報料という点からはほぼ無料だし、スマホゲームも課金しなければお金はかからない。総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編)平成28年平均速報結果の概要」によれば、可処分所得は実質0.4%伸びているが、消費支出は実質1.7%の減少となっており、消費者の「不要なモノにはおカネをかけない」という傾向は明らか。

 しかも消費の内訳を見ると「書籍・他の印刷物」の前年比実質増減率はマイナス3.6%と大きい。本離れは相対的に割高な本を消費者が敬遠しているためだろう。

 

 最後に指摘したいのは、ペーパーレス化を推進する時代の流れに追いついていないこと。公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所の調査によれば、2018年の出版市場は全体で3.2%の減少で。紙市場は5.7%減の1兆2,921億円に対して、電子市場は11.9%増の2,479億円となっている。電子市場が伸びているとはいえ、その大半はコミックに依存しているのが実態。「本」市場全体の規模は減少傾向のままだ。

 個人的には、現在「紙」も「電子」も本の価格はほぼ同一だが、これを制作費用に合わせて差別化しないと、市場全体の地盤沈下は止まらないと思う。

 

 いずれにせよ、人はどうしてもより「分かりやすい」「安い」「アクセスしやすい」ものに流れていくもの。ネットのまとめサイトや動画、スマホゲームなどが気軽にアプローチできるように熾烈な競争を繰り広げているのに対して、紙媒体を中心とする出版業界が既存の販売方式(出版社⇒取次⇒書店)に依存して、あぐらをかいてきた側面は否めない。

 本がそれ自体の売り上げから利益を出しているのに対して、ネットは広告から、ゲームは課金で稼ぐという違いはあるにせよ、このままでは「読書」という行為が、一部の愛好家よる「贅沢な趣味」として扱われる時代が来るかもしれない。