東京の新築マンションがどんどん狭くなる事情(東洋経済オンライン)
一井 純 : 東洋経済 記者
土地、工事費などが高騰し、マンション価格が高騰すると一般のサラリーマンの手には届きにくくなる。これを解消するためには「専有面積」を狭くするしかない――このような趣旨の記事「東京の新築マンションがどんどん狭くなる事情」が3月9日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
不動産経済研究所が発表した2020年1月度の首都圏のマンション市場動向によれば、東京都区部の地域別平均価格は前月比38.7%アップの1億511万円と1億円の大台に乗せている。これは都区部の集計だから人気の都心3区ではさらに高いはずで、もはや並のパワーカップルでは買いたくても買えない水準にまで上昇してしまった。
この価格高騰の影響が新築マンション市場を直撃、記事にあるような葛飾区の「3LDKといっても、実は専有面積は54.37平方メートルしかない」といった物件が登場している訳だ。
具体的には、各部屋の面積を縮小させるほか、収納スペースも激減して対応しているようだ。他にも私が知るところでは、郊外の7000万円台からのマンションでも通路から玄関を引っ込ませるアルコープをなくすなどの「さりげない工夫」も散見される。
記事では「大手でも、50平方メートル台のファミリー向け住戸が登場するのは、時間の問題かもしれない」と予想しているが、これは現在の不動産市況が続けば確実だろう。デベロッパーはとにかくマンションを売らなければ、事業が成り立たないからだ。
一部の大手はオフィス部門を強化し、住宅部門は縮小しているが、それでもゼロという訳にはいかないだろう。しかも郊外のマンションは不人気化が収まらず、竣工後1年を経ても売れ残ったため品確法上「新築」と名乗れない物件が続出しているのが実態。都心へのアクセスが良いエリアに無理してでも建てざるを得ない状況にある。
実はこれと似たような現象は最近では2015年にも起きていて、東洋経済オンラインでも同年8月2日に「都心で超狭2LDKマンション大ヒットの理由」として記事化している。
このなかで「思い返せば、2000年ごろに都心部を中心に『狭小住宅ブーム』が起こったが、それ以来、『都市の諸機能を自分の生活の場としながらコンパクトライフを送る』という流れがずっと続いている」と書かれているが、価格の高騰⇒専有面積の縮小という「流れ」は過去も将来も関係なく存在するようだ。
問題は、50平米台の3LDKでまともな生活ができるのかだろう。個人的には50平米台なら2LDKとするのが常識だと思う。部屋数が増えても肝心の各部屋の面積が狭ければ使い勝手は悪い。部屋数は少なくても面積が広い方が利便性は高いはずだ。
無理に「3LDK」という言葉で顧客にアピールするのは、長い目で見れば名前だけの貧相な物件を積み増す結果となるだけなので、将来の売却を考えるのであれば「3LDK狭小マンション」は避けた方がいいと思う。
総務省の「平成 30 年住宅・土地統計調査」によれば、平成30年の空き家率は13.6%と過去最高。伸び率は縮小しているが、今後都市部でも世帯数の減少が見込まれるなか、都区部の戸建てのほかに、郊外のニュータウンなどでも相続による空き家の増加は確実。2022年に生産緑地のかなりエリアが宅地化される影響も無視できない。
住宅へのニーズが減る一方で供給は増加の一途、買い手がより良好な住環境を選べるようになれば、将来の売却を考えた場合、わざわざ中古の50平米の3LDKが人気を集めるとは考えにくい。
記事では、収納をトランクルームへと「外注」、ラウンジを応接室に、書斎を共用施設へと「移設」することで対応する動きが出ているとしている。要するに「子供のいない共働き夫婦には狭い面積でも十分」という論理だ。
確かに近年の「断捨離」などの動きや、カーシェアリング、リモートワークオフィスなどの普及を考えれば、「所有から利用」という省スペース化の流れは続いていくのだろう。
若い世代には「住まいは寝ることが確保できれば十分」という発想があってもおかしくはない。
ただ郊外の比較的広い空き家が増える一方で、都心は狭小を極めたマンションが人気化するというのは、過去の記事にもあるように結局は「数年ごとのブーム」でしかないように思う。
無理をして「狭小マンション」を購入しても、得られるのは「区分所有権の取得」という自己満足という結果に終わる可能性が高いとだろう。もちろんこれは個人的な感想なので、あくまで1人の宅建士の参考意見として捉えてほしい。