如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「在宅勤務」の想定外の普及で都心のオフィス、マンション需要は軟化へ

物件購入者の視線、「都心一辺倒」から「郊外」も視野に

 

 前回20日に掲載した記事「購入するならマンションよりも戸建てを勧めるワケ」には予想以上の反応があった。
 知り合いからは「何をいまさら」とも言われたのだが、都心部のマンションは供給こそ減ってはいるものの価格は高止まりしている。


 財閥系を中心とする大手デベロッパーがシェアを握ることで、体力に自信のある不動産会社は「値引き」戦略に出るまで追い込まれていないためだ。一方、飯田産業グループなどパワービルダーや工務店の手掛ける東京郊外の建売戸建て価格はここ2年間ほぼ横ばいだ(データは全国指定流通機構連絡協議会の(REINS Market Informationで検索可能)。

 

 低迷する契約率から見て、無理にマンションを購入する層は確実に減りつつあるとは思うが、一番気になるのは今回のコロナウイルス被害を受けて、都心部のオフィスやマンション需要に構造的な変化が起きる可能性があることだ。それは大企業を中心とする「リモートワーク」「在宅勤務」のここ1カ月ちょっとでの急激な普及と、その業務上の影響の評価によるものである。

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 子育て、介護などで在宅勤務の必要性は政府の働き方改革でも取り上げられてはいるが、現実には「掛け声倒れ」の感があったのは否めない。その状況下でコロナウイルスをきっかけに在宅勤務が「緊急かつ強制的に」導入されたのだが、財閥系大手商社では1社4000人規模で実施されているという。

 発表では3月末が期限のようだが、元々の期限は3月15日だったので再度延長になる可能性もある。予定通り3月末に終了したとしても、1カ月間数千人単位で実施した在宅勤務のメリット、デメリットが人事部門で精査されるのは間違いないだろう。

 

 ここから先は私の想像だが、会社の評価としては「総じて業務への影響は予想よりも小さかった」となるのではないか。現実に、在宅勤務で大きく通常の業務が滞ったというニュースは聞かないし、どちらかと言えば「業務を自宅でこなすのにスペースがない」とか「家事や私用と仕事の切り分けがしにくい」いった会社側よりも社員側の問題点の方がより浮き彫りになった気がする。

 

 私が勤める会社でも今月1日から「在宅勤務の推奨」が始まり、一般社員は言うに及ばず、部長など管理職も毎日誰かが交代で在宅勤務を始めるようになった。昨年から社員一人一人に業務用のノートPCが支給され、希望者には上長の「事前承認」を得て在宅勤務が可能だったのだが、この「承認」が事実上、前日までの「届出」でOKになったのだ。


 実際に、ここ数週間で午前中に埋まっている席は半分強程度になった感がある。在宅勤務制度の急激な導入でこのような状況になっても、社内の業務や手続きが滞ったという話はまったく聞かない。チャットやメール、ビデオ会議で事足りているのだ。これはおそらく他の会社でも同じ状況ではないだろうか。

 

 つまり、「出社してこそ仕事」という固定概念が瓦解し「成果を出してこそ仕事」という会社組織における意識改革が進むのは間違いないと言っていいだろう。この結果、正社員全員分までの机と椅子とロッカーは不要となり、オフィスに必要とされる面積は大きく削減されることになる。大手商社2社で8000人規模の社員が存在する訳だから、その半分が不要となるだけでも影響は大きい。しかもこの流れは数百社以上とされる子会社、孫会社にも影響するはずだ。

 

 そのうえ「商社で可能ならば」と、銀行を中心とする金融機関や、大手メーカーなども追随する公算が大きい。こうなると現在丸の内、大手町を中心とする高度にひっ迫したオフィス需要は一気に緩和する可能性がある。

 具体的には東京駅八重洲口駅前では現在、東京建物が「東京駅前八重洲一丁目東地区第一種市街地再開発事業」を敷地1.4ヘクタールの規模で開発中で、50階建てのビルを中心に2025年の竣工を目指している。このほかにも周辺にオフィスビルの供給予定は多数ある。需給関係から考えて、中長期的にオフィス過多となる可能性は低くない。

 

 一方社員の側から見ると、在宅勤務が普及すれば、共稼ぎ世帯が通勤や子育てのために都心の勤務先近くにバカ高いマンションなどを購入する必要性は当然ながら低くなる。夫婦のどちらかが交代で在宅勤務をすればいいだけの話だ。今回の感染予防のための時差出勤のさらなる普及も勤務体系に相当影響するはずだ。
 となれば住宅購入予定者の目が割安な郊外に向くのは必然。山手線のターミナル駅まで30~40分程度の駅は十分視野に入ってくるだろう。

 

 こうなるとマンションを予定していた人が、住環境を考慮して戸建てを選択肢に入れることも考えられる。あくまで私見だが東京市部の主要路線の駅で検討すると、駅から徒歩20分程度で土地35坪、床面積80平米台の庭、駐車場付き二階建て戸建てと、同じ駅から徒歩10分前後の同じ床面積のマンションはほぼ同じ価格だ(管理費、修繕積立金等も考慮)。

 

 資産価値という面では、現在の不動産市況では「駅からの距離」が最優先事項(徒歩7分以内等)になっているが、昨年水害を受けた武蔵小杉のタワーマンションを受けて、購入者がハザードマップを考慮する機運が今後高まるのは確実。特に人気の大規模マンションの場合、敷地面積が大きいので一部がハザードマップにかかるというリスクがあるが、戸建てであればピンポイントで地盤やハザードマップの確認が可能だ。

 

 以上結論をまとめると、今後在宅勤務の急速な普及で都心のオフィス、マンション需要は減少傾向を強め、郊外に住宅を求める勤労者が増える。この流れのなかで割安で安全な戸建てを検討対象にする向きが拡大する、ということになる。
 2022年には生産緑地の宅地化(東京では練馬と世田谷が多いらしい)も一定量は見込めることで、物件の選択肢が広まることも戸建て派の追い風になるのではないだろうか。