現行機種はすでに生産中止、発売は6月26日
パナソニックの液晶4Kテレビ「VIERA(ビエラ)」の新機種(HX850シリーズ)が4月20日に発表された。
同社のプレスリリースによれば、発売されるのは43型と49型の2機種で現行機種GX855シリーズにあった55型と65型はラインアップから外れた。
しかし、現行機種が発売されたのが昨年10月、3月には一部機種が生産完了とWebカタログで記載され、4月に入って液晶4Kテレビは3つのシリーズ(GX855、GX755、GX500)のすべての商品が生産完了となり、カタログ上ではレコーダーを内蔵したGR770しか選択の余地はなかった。レコーダー内蔵型はあくまで傍流であり主力商品ではない。事実上パナソニックは4K液晶の販売を在庫処分に任せていた状態だった。
ちなみに、現行の有機ELの4Kテレビも3ラインアップのうち2つが生産完了となっているので、こちらも近々新製品が発表されるものと思われる。
私が購入したGX855が発売から5カ月で生産完了になったのには驚いたが、今回の発表で一番驚かされたのは発表日と発売日のズレ。
前々モデル(GX850)シリーズのこの「ズレ」の期間が16日(2019年1月9日発表、発売は同月25日)だったのだが、前モデル(GX855)シリーズではこの期間が28日(同9月20日発表、発売は10月18日)に伸びた。
これが今回の新モデルHX850シリーズでは、4月21日発表、発売は6月26日だから2カ月(60日)以上先になったのである。期間は前回の2倍だ。
すでにヨドバシカメラではGX855シリーズは、49型以外はすべて予定数の販売を終了しており、その49型も在庫残小の状態。価格は底値圏にあるのでお買い得なので、新機種発表で月内にも販売完了となる可能性が高い。
となると、6月26日までの約2カ月、消費者はパナソニックの4K液晶テレビを購入できない事態となる。
ちなみにライバルのソニーも4月2日に液晶、有機ELの新ラインアップ16機種を発表したが、最も発売日が早いX8000Hシリーズ(5機種)は4月18日の発売で、発表からの期間はわずか16日。残りのうち6機種は4月下旬か5月中の発売で、約7割は5月までに発売される。
しかも、既存の4K液晶モデル(X9500G)などはまだ「在庫あり」の状態であり、商品供給を途絶えることなく新機種に移行させる計画だ。
この状況を見ると、パナソニックはテレビ事業に対してどのような戦略で望んでいるのか疑問を持たざるを得ない。
この問題のヒントが週刊ダイヤモンドの今年2月3日の記事「パナソニック家電・テレビ国内工場、統廃合の『生贄』になるのは?」にありそうだ。
記事では「昨年末、津賀社長はダイヤモンド編集部の取材に対し、『テレビ事業だけは許さない』と断言したばかりだ」と書かれており、自社生産にこだわらない姿勢を明確にしている。
しかもすでに製造コストの約半分を占める液晶パネルは外部調達しており、今後テレビの開発、製造工程を外部に委託する可能性は十分にある。
想像するに、社内でテレビ事業を巡って混乱が生じているのではないだろうか。事業を切り離したい経営トップと自社開発にこだわる開発部門との間で今後の方針がなかなか定まらず、その結果「約2カ月」という発表と発売の時期のズレが生じたのではないかと思える。あくまで個人的な見解だが。
さて、話は今回発表された新モデルHX850シリーズに戻るが、プレスリリースによれば<特徴>は以下の3点。
- 臨場感あふれる画質・音質でスポーツ番組もその場にいるかのように楽しめる
(1)ビエラ独自の映像処理技術であらゆる映像を色鮮やかで高コントラストな映像に
(2)激しい動きの映像もなめらかに表示「オブジェクト検出 倍速表示」
(3)頭上を含む上下左右から音に包み込まれる迫力の立体音響「ドルビーアトモス」に対応
- 地震に強く、倒れにくい「転倒防止スタンド」
- BS4K・110度CS4Kダブルチューナー内蔵で外付けハードディスク(別売)への新4K衛星放送の裏番組録画にも対応
このうち2.と3.については前モデルにも搭載されていたので新たな機能ではない。
また1.についても、(1)は具体的には[ヘキサクロマドライブ]と[AI HDRリマスター]のことを指していると思われる。どちらの機能も前モデルに搭載されていたが、プレスリリースには「AI HDRリマスターを進化させ」とあるので画質の改善は見込めるかもしれない。
ただし(2)「オブジェクト検出 倍速表示」と(3)「ドルビーアトモス」はプレスリリースからは具体的な改良内容が記載されておらず、変更点があるのかは不明だ。
他にパッと見で判る違いと言えば、よく使うアプリを登録しておけば、アイコンが画面下に表示される「かんたんホーム」機能に、サムネイルが追加表示されるようになったことぐらいだ。
ただし、プレスリリースでは開示されていない改良があるかもしれないので、現時点ではあくまで発表資料からわかる範囲ということは補足しておきたい。
肝心の価格は49型が16万円前後と想定されているので、前回のモデルチェンジ時とほぼ同じだ。
以上をまとめると、個人的な意見としては、3月に事実上生産完了となって店頭から液晶4Kテレビが消えつつあったなか、ようやく4月20日に新機種の発表があったが、大きな改良点は見当たらず発売時期も含めて「期待はずれ」といったところだ。
実際調査会社BCNの実売台数ランキングでは、前々モデル(GX850)は新モデル発表の直前まで1位だったが、後継機(GX855)は4月12日時点の集計で9位に留まっているし、10位以内にはパナソニックはこの1機種しかランクインしていない。人気が低迷しつつあるのは明らかだ。
ハイセンスなど海外勢の安値攻勢に押されている側面はあるとはいえ、それは国内メーカーも事情は同じ。先のBCNランキングで、10位内にシャープがトップを含む4機種、東芝が3機種ランクインしている(どちらも純粋な日本メーカーとは言い難いが)。
いずれにせよ、パナソニックはテレビ事業の方向性を早急かつ明確にしないと、顧客離れは一層深刻になると思う。