当面は不動産販売の回復見込めず
駅ナカなどに隔週で配布されているフリーペーパー「SUUMO新築マンション」が大変な状況に陥っている。
最新の2020年5月26日号(東京市部・神奈川北西版)では、何と掲載している新築物件がたったの2件しかないのである。
しかも、この2件とも千葉県の柏市の物件で、東京都でも神奈川県でもない。掲載物件の少なさにも驚いたが、対象地域がそもそもカバーするエリアと異なることから考えて、SUUMOはかなり追い詰められていると考えていいだろう。
ほんの数年前の最盛期には数十件もの物件を掲載し、厚みも2センチぐらいはあったのだが、その後新築マンションの価格が急騰し、買い手が手控えムードとなると掲載物件の件数は大きく減少、とじ込みは「糊付け」から「ホッチキス」に切り替わったほか、発行頻度も「週刊」から「隔週刊」に変わった。
さらにこの春の新型コロナウイルスの影響で、新築マンションのモデルルームは閉鎖を余儀なくされ、営業活動はほぼ休止状態。実際5月17日の東洋経済オンラインには「コロナ『新築・中古マンション価格』への影響度」として、SUUMO編集部が寄稿、「新築マンションモデルルームへの来場者は大幅に減少。来場者数は半減どころか80~90%減といったところが続出」と書いている。
数千万円の買い物をするのに顧客との対面営業は欠かせないのだが、ソーシャルディタンスの確保を考えると事実上「懇切丁寧な営業」は不可能だろう。となれば営業できない以上、物件の広告を打っても集客効果は見込めないのだから「SUUMO」の掲載物件が激減するのは当然の結果ではある。
問題は、この状態がいつまで続くのかだろう。6月に入って一部の不動産販売会社は営業を再開したようだが、これまでのような集客は見込めないうえ、仮に顧客が来てもテーブルの間隔を空けざるを得ず、成約への道程は厳しそうだ。
加えて、新型コロナウイルスの影響で、賃金や仕事など雇用への不安感は社会全体に急速に高まっている。35年もの長期ローンを組むことに慎重な向きが増えることは間違いない。
しかも都心部の新築マンションは土地の価格が高い時点でデベロッパーが購入しており、原価から計算して価格は下げようがないのが実態。しかも財務力の高い大手デベロッパーの市場占有率が高く、安易に値下げする必要性が現時点ではないことも、価格の高止まりと購入手控えに影響している。
一方、個人売買が大半の中古マンションは先のSUUMOの記事によれば、株価次第で「都心中古マンション成約単価は15~20%マイナスで推移する」と予想している。
気になるのは、夫婦がペアローンで購入可能な最大限の価格の物件を購入したものの、所得の減少を受けてマンションを手放す動きが強まることだ。
都心3区や湾岸エリアのタワーマンションなどが急騰したのは数年前から。ローンの支払いの大半は利払い当てられ、借入残高はほとんど減っていない可能性が高い。つまり売却しても残債が残る可能性が高い。
ただ、支払い不能に追い込まれれば、任意売却などに追い込まれるのは必至。売却物件の増加で中古マンション価格への影響は避けられないだろう。
さらに言えば、今回の感染防止策の一環であるリモートワークの普及で、職場への通勤利便性を最優先に考える向きが減少するのは間違いないはず。
毎日出社する必要がなくなり、時差通勤がさらに普及すれば、バカ高い都心部のマンションを購入する必然性は低下する。都心のターミナル駅から30~40分程度の距離で探せば、物件価格は大きく下がる。こうなると駅近のマンションに限らず、やや離れた建売の戸建ても視野に入ってくるはずだ。
いずれにせよ、今回の新型コロナウイルスは秋以降に予想される第二波などの影響も予想されることから、生活様式を含めた住宅購入予定者の思考回路に大きな変化をもたらすだろう。この変化が住宅市場に与える影響は、一時的なものではないことは間違いなさそうだ。