如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

増加傾向のアルコール依存症、回復には「断酒」しかない理由

「節酒」では、まず間違いなく失敗する

 

 昔は「アル中(アルコール中毒)」と呼ばれた大酒飲みは、今は「アルコール依存症」と呼ばれている。要するにギャンブルと同じで「『なし』ではいられない依存体質」だからだろう。

 

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 さて、今回のテーマはこの「アルコール依存症」である。今回のコロナ禍で在宅勤務になったり、仕事が減ったりして家にいる時間が増えて、手持ち無沙汰から酒を飲む機会が増えて、依存症になりかけている人が増加しているらしい。

 実は私も10年以上前まで浴びるように酒を飲んでいて、γGTPの値は2000を超えたこともあった。同じ酒飲みでも私の場合は「自宅飲み」がほとんど。帰宅後は毎日缶酎ハイの500ml缶を5本は軽く飲んでいた。そのあとは寝るまでウイスキーをボトル半分ぐらい。休日ともなると朝からビールを飲み始めて、食事もしないで夕方まで飲み続ける日も少なくなかった。

 

 さすがに欠勤など会社に迷惑をかけることはなかったが、午前中は仕事にならなかった日が多かった気がする。周囲の職場の人たちは私の酒の飲みすぎに薄々感づいていたとは思うが・・・

 

 ちなみに現在まで10年ぐらいは一滴もアルコールを飲んでいない。正確に止めた日を覚えていないぐらい前から断酒している。断酒に成功した理由を結論から先に言うと、「本人に止める意地(意志ではない)がなければ断酒できない」し、「節酒ではまず成功しない」と思った方がいい。これは依存症の経験者本人が行っているのだから間違いない。

 

 また、最近のアルコール依存症に関する記事で目立つのが「いきなり断酒は困難だから節酒から始めましょう」という内容。例えばAERA.dotの6月28日付けの記事「断酒は無理…酒好き肝臓専門医『1週間の総量規制で楽しんで』」などがそれに該当する。

 記事の趣旨は、1日20グラムのアルコール(ビール中瓶1本)に限定すれば身体への影響は避けられる、1週間で140グラムと言う「総量規制」でも構わない、としている。

 

 過去に大酒を飲んでいた人間から見れば、1日ビール中瓶1本で収まるぐらいなら、とっくに酒を止められている。かく言う私自身「節酒」から始めようとして何度も失敗している。飲み始めて途中でやめるぐらいなら、最初から飲まない方がずっと楽なのが実態なのだ。

 

 私は本格的に酒を止めようと思ってアルコール外来に行ったこともあるし、そこで紹介された断酒会やAAにも数カ月通ったことはある。そこで出席者から必ず聞かされることになるのは「ちょっとなら大丈夫」と思って飲み始めたら、いつの間にか止められず元の状態に戻っていた、という体験談だ。

 

 アルコール依存症もしくはその傾向があると思っている人は、アルコールに向き合う姿勢を「一生ここままでいい」とするか「絶対に断酒する」と誓うか、どちらかはっきりと決めた方がいい。「節酒」と中途半端は行為は、私に言わせれば「断酒」より困難で効果も限定的なものだ。

 

 では、どうやって「断酒」するかという話だが、これは言葉にすれば簡単だが「1日1日の積み上げ」しかあり得ない。「なんだそんなことか」と思われるのも無理はないと思う。実際に私もそのような虚しさを感じたのは事実だ。

 

 ただ考えてみてほしい。例えばギターやピアノなど楽器を趣味としている人は、数日の練習で演奏できるようになっただろうか。コードや指使いをイチから覚えて、日々の練習の積み重ねの結果、数か月経ってようやくサマになりかけたといったところではないだろうか。

 

 「断酒」も同じである。「今日1日断酒できた」という事実の積み重ねが結果として、長期の断酒に繋がっていくのだ。個人的な経験から言えば、確かに断酒を初めて1週間ぐらいは寝付けないし、寝汗はかくし、イライラ感は収まらないし、と精神的にかなり堪えるのは事実だ。ただ、これを乗り越えるとアルコールがない生活がごく普通になってくる。

 ただし、半年ぐらいは飲み会や宴会などには顔を出さない方がいい。アルコールとの接近は無用なリスクになるだけだからだ。もっとも最近は新型コロナの影響で、こうした会合はないだろうが。

 

 先にも書いたが私は断酒して約10年が経過している。こうなるともう誰も酒を勧めてこないし、当然ながら飲みたいとも思わない。昨年暮れにある趣味の団体の忘年会に参加したが、参加者のほぼ全員が酔っ払っていたなかで、私だけは最後まで悠然とウーロン茶を飲み続けていた。もはや達観の境地といってもいいだろう。

 

 最後に参考までに私が断酒するきっかけのひとつになった本を紹介したい。それは「禁酒セラピー」(アレン・カー著)である。アルコール依存症に関係する人たちの間ではかなり有名な本なので知っている人も多いとは思うが、読んだことのない方は一読されることを勧める。

 内容が参考になるのは事実だが、それよりも冒頭の「この本を読み終えるまでお酒は止めないでください」という書き出しが面白い。

 

 繰り返しになるが、アルコール依存症から脱したいなら「節酒」ではなく「断酒」しかない。節酒を勧める論調が昨今急速に増えてきたのは、「断酒」では病院の外来に来る人が限られるので、「節酒」という手法で治療のハードルを低くすることで、より多くの患者を呼び込みたいという医療関係者の思惑が働いていないとは言い切れないと思う。

 

 結局、アルコールの罠から抜け出すのに、「楽な方法」や「近道」はないのだ。