各種メディアの世論調査では第一位なのに・・・
自民党総裁選が9日に告示、14日に投開票される。菅義偉・官房長官・岸田文雄・政調会長、石破茂・元幹事長の3名が出馬予定のようだが、すでに各種メディアで報じられているように派閥の大半の賛同を取り付けた菅氏の圧勝は既定事項とされている。
つい最近まで菅氏は総裁選には出ないと明言していたが、「安倍首相の突然の退陣に政策の継続性などを考慮して急遽出馬を決めた」と本人がメディアでは説明していた。これは嘘ではないだろうが、老練かつ冷静な菅氏が「勢い」で決めるとは思えない。立候補を決意するまでの短い期間に二階幹事長や公明党幹部の了解を得ていたのは間違いないだろう。
菅氏の思惑通りかどうかは分からないが、二階幹事長が真っ先に指示の方針を打ち出したことで、総裁選の流れは大きく動いた。安倍首相からの禅譲を自他ともに想定していた岸田氏にとっては想定外の事態だっただろうが、前回の総裁選では安倍首相に配慮して立候補しなかっただけに、今回出なければ2回連続の不出馬となり、派閥や支援者の期待を裏切ることになる。ここは次につなげるためにも「負戦」を覚悟で、総裁選に臨むしかないだろう。
むしろ岸田氏で注目すべきはどの程度の得票で2位を確保できるか、そして石破氏にどれだけ差をつけられるかだ。これは地方票(141票)の行方に左右されるが、石破氏との最終得票があまり差がないようだと、これはこれで政治家としての実力を問われる事態になりかねない。まさかの逆転はさすがにないと思うが。
個人的に気になっているのは、現時点では最下位が予想される石破氏である。マスコミもあまり口にしないようだが、総裁選の立候補には20人の国会議員の推薦が必要なのに、どのメディアを見ても石破派は19人とされている。最終的には無派閥の議員に協力を要請するのだろうが、何とかスタートラインに立てるような状態では、カタチだけの参戦で実質的な選挙戦にはならない。本人は立候補さえすればあとは地方票(141票)をどこまで確保して、岸田氏に近づけるかが焦点と考えているのではないか。
テレビなどのメディアの世論調査では次期総裁の人気第一位になることが多い石破氏だが、総裁選に勝つのは100%不可能だろう。なにしろ同じ国会議員の評判があまりよろしくないというか、評価する議員が少ないからだ。ここ数年の石破氏の言動を見る限り「味方の後ろから鉄砲を撃つ」ような政権批判が大きく影響しているのは間違いないだろうが、個人的には石破氏の「信念の弱さ」や「変わり身の早さ」が信用されない最大の要因ではないかと思っている。
2018年に出版された新書「政策至上主義」では、石破氏が自身の経歴について書いているのだが、まず大学卒業後の就職にあたって本人は鉄道好きもあって国鉄(現JR)を希望したそうだが、父親の反対にあって三井銀行(現三井住友銀行)に就職している。就職先すら自分で決められないのだ。さらに28歳の働き盛りの時代に鳥取県知事だった父親が急死するのだが、ここでも故田中角栄首相の要請で元々政治家志望ではなかったのに、銀行を退職して衆議院議員に転じている(1986年)。自分の職業・仕事すら他人の言うがままでは、政治家には必須の「信念」が乏しいと言わざるを得ない。
1993年には政治改革関連4法案に自民党の意向に反して賛成したことで、離党するという政治家としての「覚悟」を見せるも4年後の1997年には自民党に復党、2002年には小泉内閣で防衛庁長官に任命されている。この辺りの立ち回りのうまさを見ると「機を見るに敏」ともいえるが、「節操がない」とも見れ取れる。以上から考えて、個人的には石破氏を「軸足の定まらない不安要素の大きい政治家」だと認識している。
石破氏は「軍事オタク」として有名な一方、「鉄道オタク」「アイドル通」としても知られており、他の政治家にはない「大衆的な要素」を持っているのは事実で親近感のを覚える人もいるだろうが、政治家の仕事の本質はあくまで自己の信念に基づく「政策の実現」だ。その政策はどれほど立派な内容であったとしても、多くの議員の協力や賛同がなければ、政策の実現に必要な法案の作成・審議・成立は不可能だ。
石破氏の場合、確固たる信念に基づいて終始一貫してブレずに行動する「気概」が感じられないし、かといって利害関係者と折り合いをつけて現実路線を目指すような「柔軟性」にも乏しいように見える。要するに政治家としての「立ち位置が不明瞭」なのだ。だから地元の選挙にはめっぽう強いものの、国会では文句ばかりいう「評論家」扱いされて人望がないのだろう。
ともあれ、総裁選後に石破氏がそのまま自民党に居続けるとは考えにくい。新総理となるであろう菅氏も、岸田派はともかく石破派から閣僚を起用するとは考えにくく、石破派は解消もしくは派閥ごと新党ないしは、既存野党に合流するのではないだろうか。この場合、党首としてプライドも信念も高い枝野氏の立憲民主党ではなく、新しい国民民主党を選択すると推測する。玉木雄一郎氏を中心とする新党の参加者は22名と言われており、これに石破派の19名が加われば議員40人台の規模となり、国会でもそれなりの存在感を示せる。余談だが新たな国民民主党には石破氏と仲が良いとされる前原誠司・元外相もいる。
巷では、菅新総理が今秋にも総選挙に打って出るとの観測も流れているが、石破氏の動向次第で投票が影響を受ければ、多少なりとも与野党の構図に変化が起きるのかもしれない。完全な野党にはなりきれないものの、自民党とは一線を画したいとする政党は、日本維新の会のように「現状に不満はあるが他に選択肢がなかった保守層」にとって、それなりの「受け皿」になると思われるからだ。