大塚久美子社長の退職金にも注目
大塚家具は28日、大塚久美子社長(52)が12月1日付で辞任する人事を発表した。自主再建が困難となって昨年ヤマダ電機の傘下に入った時点で、こうなることは予想されたが、「ようやく」といった感はある。
もっとも同社が発表した「業績予想に関するお知らせ」によれば、2021年4月期の純利益予想が28億9000万円の赤字で、これで通算5期連続の最終赤字、3期連続の無配となるのだから経営責任を取るのは当然と言えば当然ではある。しかも親会社のヤマダホールディングスグループの山田会長は昨年12月の大塚家具の子会社化にあたって「業績回復への社長の猶予期間は1年」という趣旨の発言をしていたはずで、今回の人事はまさに有言実行と言える。
ここで気になるのは、発表資料に「現在スピード感を以って取り組んでいる抜本的構造改革を期中に終える予定であり、来期黒字化に向けて道筋がつきつつあります」とあること。過去の業績の推移を見ると、2016年12月期に最終赤字(45億円)に転落したあと、2017年12月期には赤字幅が1.58倍の約73億円に拡大、2018年12月期は赤字幅が32億円に縮小するも、決算期変更のあった2020年4月期には再び77億円の赤字と2.38倍に増加している。
今期が28億円の赤字に収まったと言っても「卸資産評価損対象商品の販売や閉店等による賃借料の低減等による効果が大きい」と書いてあるように、前向きな施策によるものではなく、効果は一時的だろう。このままでは再び赤字が拡大する可能性も否定できない。
つまり現行の経営方針では、本業の業績回復は見込み薄と言わざるを得ない。
ここで今後想定されるのは、社長をヤマダ電機から来た三嶋会長が兼任することで、ヤマダ電機を主軸とするヤマダホールディングスグループの「家具事業の大規模な構造改革」の可能性が高いこと。例えば、大塚久美子氏が完全に経営から離れることで、名実ともに大塚家具を自由に差配することが可能になる。
ヤマダ電機は2011年エス・バイ・エルを子会社化し住宅事業に参入、大塚家具も子会社化して、その傾向を強めていた。今回の大塚家具の社長交代で、個人的に今後真っ先に予想される展開は、大塚家具の創業で久美子社長の父親でもある大塚勝久が会長を務める匠大塚との合併だ。
もともとヤマダ電機が大塚家具を買収したのは「家電の安売り」というイメージを「高級ブランド家具」という商品を手掛けることで払しょくしたいという意図があったのは間違いない。
大塚家具が「会員制」「高級家具」路線を変更して業績不振に陥る中、この創業以来の独自路線を守り続ける匠大塚はかなり魅力的な会社だ。
匠大塚の大塚勝久会長にとっても、思い入れの深い大塚家具を再び自分の会社とし、これまでの経営方針を生かせると考えれば悪くない話のはずだ。最大の障壁であった久美子社長の辞任で、事業復興の環境は整ったのではないか。非公開会社なので詳細は不明だが、匠大塚も昨今の経営状況は厳しいとの話もある。
しかも、ヤマダ電機の親会社でヤマダホールディングスグループの山田昇会長は1943年2月生まれ、一方の匠大塚の大塚勝久会長も1943年の4月の生まれでともに77歳。同じ戦前生まれとして商売を含めた価値観は近いものがあるのではないだろうか。
このようにヤマダホールディング主導による、大塚家具と匠大塚の合併はかなり現実味がある話だと思うし、合理主義者で知られる山田会長の性格から考えて、かなり早い時期に実現する可能性もある。
あと余談になるが、現大塚家具社長の退職金についても気になるところ。2015年に社長就任後その年の12月期にはかろうじて売上高も増加、3億円の最終黒字を確保したが、その後は一貫して売り上げは減り続け、資金繰りは急速に悪化、銀行に支援を要請した。中古品の取り扱いや、中国企業と提携するなどの新たな事業展開も不発に終わった。
ここまでの実績を考えれば、常識的には「退職金はゼロ」だろう。ただ、あの気の強い久美子社長がそのまま無抵抗に受け入れるとも考えにくい。12月1日の辞任まではマスメディア等による退職金の有無や金額について憶測記事が飛び交う可能性もありそうだ。