如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

復調のマンション市場、「本当にリスク覚悟の購入ですか?」

おススメは現役引退後の「現金一括購入」

 

 新型コロナ禍で低迷していた新築マンション市場に回復の兆しが見える。不動産経済研究所が10月20日に発表した「首都圏のマンション市場動向(9月度)」によれば、新規発売戸数は前月比48.4%増、契約率は73.4%と好不調の基準となる70%を6月以来3か月ぶりに上回った。

 

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 今年に入って購入を見合わせていた層が、ここに来てマンション市場に戻ってきたようだが、いい機会なので、2019年2月にAmazonに投稿した「負動産時代 マイナス価格となる家と土地 (朝日新書)」のレビューの一部を再掲したい。

 その趣旨は、「そのマンション本当に今買って大丈夫ですか?」。つまり購入予定者に一歩踏みとどまって、支払い計画や将来のライフスタイルなどを今一度考えてもらうことだ。

 

 折しも日本経済新聞は10月4日に「住宅ローン、定年後に遠のく完済への道」という記事を掲載、2020年の借り手の返済期限が20年前から5年延びて73歳になったことを伝えている。今後就業可能な年齢は70歳まで延長されることにはなっているが、現状の65歳でも60歳以降は1年毎の有期再雇用が大半で、給料は正社員時代の半分程度になるのが一般的。年金の支給開始年齢の引き上げも見込まれる中で、73歳まで本当に返済可能なのだろうか。

 おそらく多くの借り手は「退職金で残債を一括返済すればよい」と考えているのかもしれないが、大卒の退職金の平均額は平成30年までの15年間で700万円以上下がっている(下図:EL BORDE80年代生まれのリアル)。退職金制度自体を廃止する会社も出てくるなかで、年功序列賃金・ベースアップの廃止、ジョブ型雇用の普及などを考えれば、住宅購入後数十年間にわたって毎月10万円以上を支払える根拠がどこにあるのか慎重に再考してほしい。

 

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 ここからは私のAmazonレビュー(2019年2月)からの引用になるのだが、そもそも返済を終えた35年後の古びたマンションにどれほどの価値があるのだろうか。現在築35年のマンションを見てほしい。設備、構造など今の新築物件とは比較にならないはずだ。ごく一部の利便性の高い物件は中古でもニーズはあるだろうが、大多数のマンションは供給過剰でまともな値が付くとは思えない。(ちなみにこれと同じ趣旨のコメントが不動産アドバイザーの牧野知弘氏の2020年6月のコラム「コロナで終止符?「賃貸」VS「持ち家」のくだらない論争」に書かれています
  
 私は宅建士の資格も持っているので、個人的に分譲マンションのアドバイスを求められることも結構あるのだが、若い現役世代には新築・中古を問わずローンによるマンション購入を勧めない。代わりに手ごろな賃貸物件(公営住宅を含む)に住んで貯蓄に努め、引退後に家族構成などのライフスタイルに合わせた住宅(戸建ても含む)の現金一括購入を推奨している。人生の最後まで「賃貸」でも別に構わないのだが、今後減額が確実視される年金を原資に賃貸料を支払い続けるのは、さすがに厳しいのではないだろうか。

 近い将来人口・世帯数の減少する一方で、新規住宅建設は伸び率が鈍ることはあってもゼロにはならない。しかも区分所有者の様々な思惑が入り組んで、老朽化物件の解体も進まない(戸建ての建て替えに伴う解体は別)ので総住宅戸数は増え続けるのは確実。要するに「需要」が減って「供給」が増えるのだから、どう考えても市場全体の「不動産価格」は下がるとしか想定できない。言うまでもないが収益重視のいわゆる一丁目一番地の投資物件は別の話である。
 具体的には、いまから数十年先には相当数の住宅を選り取り好みで、中古なら数百万円程度で買える可能性が高いだろう。すでに都下でもバス便なら1000万円以下の中古物件は珍しくないのが現状だ。
 仮に70歳で引退して年金生活に入って、築15年の物件を購入しても90歳(築35年)になるまではマンションでも戸建てでも建て替えの不安はないだろう。

 では、なぜこのオススメの「引退後の現金一括購入」を、不動産の業界関係者が誰も話題にしないのかという疑問を持たれる方も多いと思う。
 その答えは「誰も儲からないから」だ。基本的に新規分譲マンションや中古物件を手掛ける業者は、「すぐにでも契約して建設コストを回収もしくは売買手数料を確保」したいので、数十年も先の話などまったく眼中にないのである。

 この話が信じられないのであれば、新築マンションのモデルルームに行って、一通り説明を聞いた後で「実は購入するのは2、3年先の話なんです」とでも話を振ってみればいい。まず間違いなく担当者の顔色が変わって、早々に話を切り上げようとするはずだ。目先の利益につながらない相手は客どころか、迷惑な存在以外の何者でもないのである。

 私は、学生時代に賃貸住宅仲介業者のアルバイト経験はあるが、現在は不動産関連の仕事をしている訳でもないし、当然ながら業者から一銭も受け取っていないので、思っていることを何のしがらみも制約もなしに正直に書いている。不動産で稼いでいないという意味では「プロ」ではないが、「プロ」が書きにくいことも正直に言えるという立場にあるのは事実だ。

 今の時代、夫婦共稼ぎの収入、借り入れ金利の上昇、地震などの自然災害、病気・ケガ、転勤・転職、子供の進学、親の介護など将来何が起きるかわからないうえに不動産価格の中長期的な下落は確実。住宅ローンという長期かつ多額の負債を自ら抱え込む必要はないと思うのだが。

 以上のように「引退後の現金一括購入」が現役世代の住宅購入予定者に対する私からのアドバイスだ。

 

 最近ではマンション購入にあたって「将来の資産価値」がキーワードになっている感がある。確かに人気の都心3区で利便性の高く、地盤・ハザードマップに問題がない物件は資産価値という点では安心感はあるのは事実だ。

 ただ、問題は物件の価格だ。2020年9月度、東京都「都心3区」の中古マンション市場によれば、1平米単価は127.94万円。これを平均的なマンションの広さ70平米に換算すると8955万円。確認しておくがこれは「中古」の価格だ。多くの購入予定者が希望する「新築」なら軽く1億円を超えてくるだろう。これは普通のサラリーマンはおろか大半の共稼ぎ世帯でも購入不可能な価格のはずだ。

 

 要するに普通の家庭が購入可能な「新築」を買えば、資産価値の下落は避けられず、特にマンションの場合は住民の合意形成ができなければ、将来の大規模修繕も建て替えも難航するのは確実。であれば、中古の戸建てを安く買って自分の都合(時期・費用など)で修繕などを実施するほうが自由度が高いのは確かだろう。

 かく言う私自身、築10数年の戸建てを購入して、地元で評判の良い工務店と親しくなって外壁・屋根を含めて小まめに家屋の手入れをしている。上物(家屋)はほぼ無価値だったので、実質的にほぼ購入価格=土地価格であり、資産価値の下落は土地部分に限定されていることも、相対的な資産価値の維持に寄与していると思う。

 もっともこれはあくまで「私個人の価値観」からの選択であって、誰にでもおススメできる手法とは思っていないので悪しからず。