戸建ての価値をどう考えるか
不動産の購入を検討している人にとっては大きなテーマである「マンション」か「戸建て」。この問題について最近意見が真っ向から対立する専門家の意見が相次いでWebサイトに掲載された。
経済評論家の加谷珪一氏は12月3日付けのプレジデントオンラインで「マイホームと賃貸はどちらがお得か」お金のプロの最終結論」というタイトルの記事を投稿、賃貸の家賃は「経費」、購入は「資産形成」という視点から、考えるべきという前提条件の下で、購入するのであれば資産価値の下がらないマンションを推奨。具体的には中古・新築を問わず利便性の高く駅地価の「立地」で物件を選択すべきとしている。
この見方について、私自身は「賃貸=経費」、「購入=資産形成」という考え方には基本的に同意する。不動産情報誌や雑誌の特集などで「賃貸と購入、どっちがお得?」といった特集が組まれることが結構あるが、賃貸料や借入金利の変動などで前提条件は変わってくるので、誰にでも通用するような確定的な結論はありえない。
ただ、前々回のブログでも書いたが問題となるのは、資産価格が落ちない人気の都心3区のような物件を買うとなると、中古・新築を問わず、普通の共稼ぎ夫婦が購入できるような価格帯ではないということだ。親からの資金援助があって購入するなら話は別だが、無理をして高い物件を買えば、将来支払いの滞る可能性は高まる。
折しも冬のボーナスが軒並み大幅カットされる会社が相次ぐなか、東京商工リサーチは10月30日に「上場企業「早期・希望退職」募集企業 前年比2倍超に急増」という記事を掲載。「募集人員は判明分だけで1万4095人と昨年をすでに上回った」としている。11月以降もこの勢いは止まっていない。
高止まりする物件価格と家計収入減少の可能性を冷静に考えれば、この時期に共稼ぎを前提にした長期ローンでの住宅購入は個人的には危険極まりないと思う。結婚や出産などで引っ越しを考えざるを得ない人は、URなどの公営住宅を含めた賃貸物件に移って当面は様子を見るべきではないだろうか。
一方、オラガ総研代表取締役の牧野知弘氏は、同じく12月3日の現代ビジネスに「日本人が大好きな「賃貸か持家か」論争、コロナ危機でついに答えが出た…!」というタイトルの記事を投稿、サブタイトルには「郊外戸建て住宅=持家」で決まり、として加谷氏とは逆に戸建てを推奨している。
もっとも、牧野氏の主張にも前提条件があって、将来コロナ禍が収束しても通勤が週1回あるいは月2回という会社が増えてくることを想定している。この「通勤」を前提としないで家を選ぶとなれば「生活ファースト」の考え方が主流になるという見立てだ。地域としては神奈川県の横須賀、小田原や埼玉県の飯能、秩父などを挙げている。
このエリアまで来れば優良な中古の戸建てが2000万円から3000万円程度で入手できるので、都心の資産価値が維持できるような高い価格のマンションを無理に買わなくても済むという見解だ。ローンを組んだとしても月々の支払いは少ないので、その分趣味やスキルの向上、家族との食事などに充当できるというメリットもあるという。
この2人とも「購入」を推奨という点では一致している。最も大きな相違点は「戸建て」の寿命に対する価値観だろう。加谷氏が「一般的な日本の木造住宅はほんとうにもたないので、あっという間にダメになって、資産価値として最後は土地代ぐらいしか残らない」と指摘しているのに対して、牧野氏は「家が古くなっても建替えは自由にできるし、売却時には家を解体して更地にすれば土地としての価値を維持することが可能」としている。
さて、この両者の言い分を聞いたうえでの私の個人的な意見だが、一般のサラリーマンが資産価値を維持できるようなエリアにマンションを購入できないという現実を考えれば、牧野氏の「郊外の中古戸建」に軍配を上げたい。
ただし、30代の働き盛りの世代が中古の戸建てを購入するのは慎重にすべきだろう。最近の戸建ては20年ぐらいで目立ったガタは来ないはずだが、30代で買って永住するとなると築15年の物件を買っても70代になるころには築60年近くなる。さすがに建て替えを視野に入れることになるが、70代で少なくとも1000万円以上の建て替え費用を捻出するのは難しいのではないか。
これは私の持論なのだが、仕事を引退するまでは多少不便でも賃貸に住んで貯蓄に努め、現役引退が見えた頃にライフスタイルに合わせた中古戸建てを現金一括で購入するのがベストだと思う。繰り返すようだが若いころに買ったマンションを資産として残せるのはごく一部の物件に限られるからだ。また、維持費も戸建ての方が安く済むし融通が利くというのが、現実に郊外の中古戸建に住む私の実感だ。
牧野氏は購入対象としてかなりの郊外エリアを意識している。ただ、2022年に期限を迎えるはずだった生産緑地法の期限が10年間延長されたことで、同年に農地が住宅地として市場に出回るのは一部になるとはいえ、いずれ地主の農家は後継者不足などで農地を手放すことになる。対象となるのは駅からやや離れた土地が多いだろうからマンションやアパートよりも戸建てとして供給されるはずだ。
国土交通省の都市交通調査・都市計画調査によれば、東京23区で最も生産緑地が多いのは練馬区の189ヘクタール、次いで世田谷区の95ヘクタール、江戸川区の63ヘクタールと続く。つまり戸建て向けの土地がヘクタール単位で放出されるわけだから、数十年先にはこの3区を中心に都区部でも中古を中心にかなり値ごろ感のある戸建てが供給されるのは確実だろう。もっともその頃には、神奈川や埼玉はさらに格安となってはいるだろうが。
住宅購入はほとんどの人にとって一生に一度の買い物となるはずだ。現役世代に支払う賃貸料は「経費」と割り切って、引退後に自分に合った戸建て「購入」という生活を考慮した方が有意義な人生を送れるのではないだろうか。というのも、これからは「人生100年」の時代と言われているのだから。