如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

政治家からの内部情報で投信を売買したらインサイダー取引に該当するのか?

インデックス投信は規制の対象外だが・・・

 

 株式のインサイダー取引については、摘発の報道がされることで個人投資家の間では違法取引という認識がかなり定着しつつあると思っていたのだが、まだ手を染める関係者は存在するらしい。

 ちょっと前になるが10月29日、時事通信社がネットのJIJI.comで「ディスカウント店「ドン・キホーテ」親会社の前社長(57)を、金融商品取引法違反(インサイダー取引と情報伝達)容疑で証券取引等監視委員会が昨年11月と今夏、関係先を強制調査」と報道している。

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 「ああ、またか」というのが正直な感想だが、現在の株式市場で「早耳情報」で儲けようとするのは投資リスクの取り方を完全に間違えている。株価の上下に対してリスクを負うのは正当だが、インサイダー取引が露呈しなければ儲けものという考えでリスクを取るのは馬鹿げている。下手をすれば利益だけでなく投資総額すべてを没収される可能性もあるうえ、有罪となれば個人としての社会的な損失は計り知れない。

 

 企業の株価に影響を与える内部情報で発表前に株取引をすれば「完全なアウト」ということは、広く世間に知られていることだとは思う。ただ、この結果インサイダー取引を管轄する金融庁は「問題のない取引まで、必要以上に控えられているのではないか」という指摘を受けて、令和元年7月に「インサイダー取引規制に関するQ&A」の改訂として、インサイダー取引に該当しない例を明記した。

 具体的には、

 ① 重要事実を知らない場合の株取引

 ② 重要事実の公表後の株取引

 ③ ETFや大半の投資信託の取引

 の3点である。(注釈は省略)

 

 金融庁としては、平成20年のインサイダー取引規制に関するQ&Aで書かれているように「株式投資等は、不公正取引でなければ、本来自由に行うことができ、安定的な資産形成の観点からも有効に活用されるべきもの」という立場であり、「社内規則で株式投資等全般を禁ずるような場合には、過剰な抑制となる」という認識だ。

 

 要するに、これまでインサイダー取引を厳しく取り締まってきたがその効果と影響があまりにも大きかったため、個人投資家の間には問題のない株式取引まで摘発を警戒して手控えるような動きがあることを懸念して、今度は一転して一定条件下での「株式投資の推奨」に動いたということだろう。

 このことは金融庁が職員に対して「法令や服務規律に反しない範囲で資産形成を後押しする取組みを行っている」とし、「金融庁職員におけるつみたてNISA等の利用について」のなかで「つみたてNISA等を活用した資産形成に率先して取り組む」と明言していることからも明らかだ。

 

 さて、ここで個人的に気になっている事例を取り上げたい。それは「政治家からの政策全般に関する内部情報の提供を受けて日経平均などのインデックス投信を売買したらインサイダー取引に該当するのか」という疑問である。

 政府が政策を実現するうえで法案の整備は欠かせない。であれば法案を通す国会議員に事前に官僚から案件が持ち込まれるのは自然なこと。各種税制度や公共投資、金融政策に至るまでその範囲は広い。もちろん個別企業の業績に直結するような情報もあるだろうが、株式相場全体へのインパクトが明かな案件も多いはずだ。これらの情報を元にインデックス投信を売買したら、儲かる可能性は決して低くはないだろう。

 

 この売買がインサイダー取引に当たるかどうかだが、金融庁の資料を見る限り該当するとは言えないように思える。というのも先の該当しない例の3番目に「大半の投資信託」が含まれているからだ。大半と言うのは、注釈に「J-REIT、上場インフラファンド、⾃社株投信等はインサイダー取引規制の対象」と書かれているからだ。ただし、ここには日経平均などのインデックス投信は含まれていない(自社株投信等の「等」の文字が気になるが)。

 

 実はこの件について確認のため証券取引等監視委員会に問い合わせたのだが、担当外ということで金融庁の担当部署に回され、そこでは「取引する証券会社に聞いてほしい」とさらにたらい回しにされた。最後に聞いた証券会社からは「その他の何らかの法令違反行為に該当するかについては、恐れ入りますが弊社ではお答えいたしかねます」との回答があったが、その後に「制度上の変更事項や政策の変化など、株価全般に影響する事実を公開前に知って行う場合、市場倫理的には好ましくない取引とされる可能性があり、情報提供者の立場を危うくする場合もあり得ることをご承知おきいただきたい」と書かれており、まったくのリスクフリーとも言えそうにないようだ。

 

 以上から個人的な考えを述べると、政治家からの政策絡みの内部情報でその家族や有力な支援者などがインデックス投信の売買を行った事例は過去にも相当数あったはずで、これらがインサイダー取引で摘発されたことはない。つまり規制する根拠となる法律が整備されていないので対象にならないということだろう。

 証券会社からの回答にある「市場倫理的」というのは、文字通り倫理上の問題なので法律上は取り締まることができないという意味のはずだ。これは社会的な責任の大きい政治家の立場を懸念しているのだと思われる。

 

 ただこれはあくまで「現時点」での話。今後私の指摘するような事例が発覚して、世間で批判の声が高まれば規制の対象となる可能性は否定できない。

 

 ちなみに私には国会議員の知り合いはいないし、あえて不必要なリスクを取る気もないので、過去も将来もインサイダー取引とは無縁だと思っているが、今回の内容が読者の参考になれば幸いである。