如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

日本人に必要なのは「投資教育」よりも「税と社会保障への理解」

「投資教育」以前に日本人に必要不可欠な金融リテラシーとは何か

大江英樹:経済コラムニスト

 

 金融庁のレポートを引き合いにした老後資金2000万円不足報道をきっかけに、当初の政府の年金運用の責任を問う方向から、最近ではレポートの内容を冷静に整理する識者が相次いだことで、その議論の方向は「足りなくなるおカネをどうやって工面するのか」という現実的な問題に移行しているように見える。

 

 こうしたなか、7月23日のDIAMOND onlineに「『投資教育以前に日本人に必要不可欠な金融リテラシーとは何か」という記事が掲載された。

 著者は、経済コラムニストの大江英樹氏。長年野村証券で資産運用相談を手掛けてきたプロのアドバイザーである。

 

 今回のレポートも含めて、巷では「日本人にはおカネに対する知識が足りない。投資養育を充実すべき」という意見が多いように感じるのだが、著者はこれに異論を唱えている。

 

 大江氏は「大事なのは単に投資のやり方を教えるのではなく、自分で判断することの大切さ、そのための必要な勉強の仕方を教えることの方が大切」としている。

 

 確かに世間で「投資」に関係する啓発本を見ると、「長期」「分散」「積み立て」といったキーワードや、投信の運用コストなど費用の軽減などの運用テクニックの一部を紹介するものが大半だ。そこには「自分の老後資金がどう運用されているのかを理解し、それを踏まえて自分で考えて将来に備える」という発想が欠けている。

 

 大江氏は、日本人は所得税などが年末調整で自動的に計算されるので、確定申告している人を除けば「税と社会保障」に無関心であることが、結果としてお上の年金頼りになっているとしている。ようするに、自分の将来の資産計画を真面目に考える必要性をあまり感じていないのだ。

 

 現実問題として、政府・自治体に占める社会保障費は年々増加しており、今後高齢化が一段と進み老齢年金の負担は増え、かつ将来は非正規雇用の期間が長かった勤労者を中心に「無年金」「低年金」の人々が拡大するのは確実。そのしわ寄せは「生活保護費の激増」に直結する。

 この問題には「社会保険料の引き上げ」か「受け取り年金額の引き下げ」しか解決策はない。この事態を冷静に考えれば「自分の老後は政府をあてにできない。自分で何とかするしかない」という危機感を持たざるを得ないはずだ。

 

 「金融教育」も必要だが、その前に、税や社会保険の知識という「投資の前提条件を理解する方が先」という大江氏の意見に賛成したい。