如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

不動産相場の波乱含みを予想する専門家長嶋氏の良心

価格は?今年の不動産市場を読み解く3ポイント(東洋経済オンライン)

『SUUMOジャーナル』編集部

 

 不動産業界は魑魅魍魎の跋扈する業界であり「性悪説」を前提に対応すべき、とのタイトルで1月30日に当ブログを書いたが、こうした業界においても個人的に「良識派」として日ごろから信頼を置いている関係者の一人に、不動産コンサルタントの長嶋修氏がいる。 

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 この長嶋氏の執筆した記事「価格は?今年の不動産市場を読み解く3ポイント」が2月2日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 もっとも、記事の直接の投稿者は『SUUMOジャーナル』編集部となっており、長嶋氏の名前は文末に(文/長嶋修)として掲載されている。

 

 この記事執筆の二重構造を個人的に分析すると、SUUMOはリクルート住まいカンパニー運営の不動産・住宅情報サイトであり、その事業収入の大半は当然ながら不動産の販売会社の広告になっている。こうなると編集部としては、不動産に関連する「マイナスな記事」は掲載しにくい

 

 一方で、新規物件の供給は昨年当初から減少傾向にあり、広告収入だけでは駅ナカのフリーペーパー事業(SUUMO新築マンション)などが成立し得なくなりつつある。実際昨年春頃まではSUUMO新築マンションは綴じ込みが糊付けだったが、春以降はホチキス止めとなりこれは現在も続いている。

 

 こういう状況下で、イケイケドンドンの不動産買いを推奨するような記事を出すのは、さすがの剛腕なリクルートでも厳しいのだろう。とはいえ、業界内でのプレゼンス(存在感)を落とすわけにはいかないという事情もある。

 そこで、顧客との関係を維持するために不動産市況を客観的に評価する記事が必要となった結果、業界内の事情に精通している長嶋氏に原稿の執筆を要請した、というのが実態だろう。

 

 話が逸れたが、今回取り上げた記事のテーマは「今年の不動産を読み解く」だ。記事に登場するキーワードは3つ。

  1. さらなる災害リスク
  2. 不動産価格のピーク感
  3. 政治の動き

である。

 

 1の災害リスクは昨年の台風による水害を想定している。記事では、「不動産売買・賃貸契約時にハザードマップの説明を義務付け」は現時点では義務化されてはいない、としているが「『浸水想定域の説明義務づけ』を提言 全国知事会、宅建業法改正で」と昨年7月に報道されているように、ハザードマップへの関心が顧客サイドからも高まるのは確実だろう。

 というよりは、今までの買い手があまりにも物件選別にあたって「被災リスク」を考えずに購入していたと言わざる得ないと思っている。

 

 加えて言えば、「地盤」にも注意すべきだ。国土交通省の国土地理院のWebサイトで「数値地図25000(土地条件)」が無料で公開されており、以下のような地形分類が確認できる(表は分類の一部)。

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地形分類(国土地理院のサイトから)

 2の不動産価格のピーク感は言うまでもないが、読者の関心が最も高いテーマである。記事では「平均価格は横ばいかやや下落」としているが、実際には中古を含めて高くなり過ぎた物件価格だけに、表向きは価格を維持するものの、実際の販売価格はかなり値下げせざるを得ない物件が増えると思う。

 

 現在は、共稼ぎの二馬力、35年のフルローンで共有名義のタワーマンションを購入するという人もまだいるが、企業業績が伸び悩み、大規模なリストラは今年も続く見通し、3組に1組は離婚するなかで、住宅ローンの負担に耐え切れず、物件を手放す事例が今年以降急増するのは確実だろう。

 

 雑誌などの時勢に敏感なメディアは、こういうテーマにはすぐに飛びつくので、住まいへの「一時の憧れが、一生を狂わせた」といった刺激的な活字が見出しになる可能性は高い。

 

 リーマンショックの時期と比べて、大手デベロッパーの市場占有率が高く「資金面で体力があるので安易な安売りはしない」との観測もあるが、モノには限度というものがある。

 売れなければ在庫になった住居の管理費、修繕積立金はデベロッパーが負担することになる。しかも竣工後1年を経過すれば、制度上「新築」を名乗ることはできない。売り手にとっては日を追うごとに売りにくくなり、費用負担が重くのしかかる。

 

 こうなると在庫は積みあがる一方なので、いずれは赤字覚悟で販売せざるを得なくなるだろう。一社が値引きを始めれば他社が追随するのは自然の流れで、これは中古市場にも影響を与えるはずだ。

 

 具体的な物件を挙げれば、「晴海フラッグ」がきっかけになるかもしれない。総分譲戸数4145戸の販売が本格化するのは今年から。オリンピックまでは何とか持ちこたえるのかもしれないが、その後は不透明だ。

 これは個人的な見方なのだが、そもそも選手村として一度使われた住戸なのに、その後リノベーションして販売する物件を「新築」とか「未入居」とか言っていいのか疑問だと感じている。まだメディアはどこも指摘していないようだが。

 

 最寄りの勝どき駅までは徒歩で約20分、広大な敷地の割には各棟が密集しているし、ゴミ処理工場は隣接、タワーマンションに匹敵する高さの工場の煙突は嫌でも目立つ。冷静に考えると、わざわざこの物件を選ぶ理由は見当たらないーーと当ブログでも「晴海フラッグ、見落としがちな2つの視点」として昨年4月18日に指摘している。

 

 記事では最後に、3の政治、経済情勢を考慮して、今年の不動産市場は「大きなトピックがなければ横ばいまたはややマイナス」「世界の政治・経済情勢に大きな変化があれば大きくマイナス」になる、と締めくくっている。これは現状での認識としては至極真っ当な見方だろう。

 

 ただ個人的には、ごく都心の優良物件を除けば「相場全体はマイナス基調が鮮明」に、経済情勢次第では中古を含めて「急落」の可能性もあると思っている。