如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

経済は「広域化」、行政は「狭域化」で都道府県の再編は必至

人口急減時代の「日本」という国のたたみ方(東洋経済オンライン)

佐々木 信夫 : 行政学者、中央大学名誉教授、法学博士

 

 日本の人口減少への問題提起をする書籍や記事をここ数年だいぶ見掛けるようになったが、47都道府県の在り方を問う記事「人口急減時代の『日本』という国のたたみ方」が9月20日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 近年では、人口減少という視点から日本の将来への「絶望」的な衝撃を与えたベストセラー「未来の年表」を2017年に出した河合雅司氏は、今年6月に「未来の地図帳」を出版、47都道府県制度の維持は不可能との前提で、対応策などを提言している。

 

 確かに記事にあるように、人口100万人に届かない県が10もあること自体問題だと思うが、これが2045年には19県とほぼ倍増し、全体の半分近くを占めるとなればさらなる大問題である。

 一方で、「未来の地図帳」によれば、東京都は1360万人、神奈川県も831万人を抱える見通しで、都道府県間の格差はもはや既存の行政の仕組みでは解決できないのは確実だろう。

 そもそも1890年と言う130年近く前に府県制によって現在の47の単位に分割されて以降、名称変更以外何の変革もなかった都道府県制度が制度疲労を起こしているのは間違いない。

 

 地方活性化のためのアクセス向上を狙って整備してきた「新幹線」「高速道路」「地方空港」は、逆に地方から都市への人口移動という結果となり、格差はさらに拡大した。

 

 国全体として長期的な「人口減少・高齢化」が避けられないなかで、では「どのように対応するか」については、現在は諸説あるのが現実だろう。

 

 ひとつは「道州制」。これは昭和の初期から論議されており、著名人では経営コンサルタントの大前研一氏等の他、最近では元大阪府知事の橋本徹氏が著者「実行力」で主張している。

 これは現在の47を10以下の行政区分にまとめて、広域行政による効率化を図るという狙いが主たるものだ。

 比較的わかりやすい考え方だが、地元の「県」が地方自治の代表でなくなることや、「国」主導の再編への抵抗などもあって、実現への動きは鈍い。

 

 一方、近著「未来の地図帳」で河合雅司氏は、人口減少への対応策は、自治体の「広域化」ではなく社会の「ドット化」とすべきと主張している。

 これは既存の市町村の枠組みに囚われずに、もっと狭いエリアで地域の特性を生かした「ミニ国家(王国)」のような集落を多数作るというものだ。

 道州制とは真逆の主張となるが、この考え方自体過去にあまり見られなかったこともあって、地方活性化のテーマとしては盛り上がりには欠けている気がする。

 富山市のようにコンパクトシティ化で成功した例もあるにはあるが、まだ少ないし、さらに規模の小さいドット化した自治体が現実問題として機能するのかという疑問も影響しているだろう。

 

  また記事の著者・佐々木信夫氏が9月に出版した「この国たたみ方」で考察を述べていて、Amazonの内容紹介によれば、その主張の基本は「道州制」の導入と、東京・大阪の「二都構想」にあるようだ。

 記事には、「移動のコストが高すぎる点も分散の進まない要因です。こうした人の流れを変える構造改革こそが、日本がいま最も必要としている国家政策」とあるように、「人の移動」による地方活性化の推進が考え方の柱としている模様。

 

 個人的な考え方を述べれば、都道府県の「機能的」な合併は不可欠だと思う。水道事業やゴミ回収、図書館などの公共事業運営などは民間委託が進みつつあるとは言え、コスト削減は管轄の市町村の範囲に留まり、効果は限定的だ。

 いずれの事業も市町村の合併で事業規模が拡大すればスケールメリットが働いて、より効率的かつ質の優れたサービスが可能になる。

 

 「機能的」と言ったのは、道州制などで県が統合されても、地域の名称として「象徴的」に「県」の名前を残せば、抵抗も弱まるのではないかと思うからだ。

 

 そもそも戦後すぐの昭和22年には10,505もあった市町村の数は、その後「昭和」「平成」の大合併を経て、現在は1,718まで減少している。率にすれば84%もの減少だ。

 当然ながら合併によって、首長や議員の数も減った訳で、市町村が抵抗を乗り越えて合併を繰り返したのに、県の仕組みは絶対に維持するという主張には、無理がありすぎる。

 

 ただ都道府県の再編は、あくまで見た目の「カタチ」の問題ではなく、合併による人口減少の歯止めや産業の活性化などの「中身」が伴わなければ意味はない。

 鉄道、道路など既存のインフラを有効活用しつつ、それぞれの地方がその特性を生かした活性策を自ら計画、策定し、実行できるように、政府も積極的に後押しをすべきだと思う。

 内閣改造で新たに地方創生担当大臣となった北村誠吾氏には、「問題発言」ではなく「地方活性」というカタチで実績を残してほしい。