如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

人口減少への対応策は、自治体の集約ではなく社会のドット化

未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること (講談社現代新書)

河合 雅司

 

 少子高齢化の進展で人口減少が避けられない日本。

 著者は前著「未来の年表」で掲げた「戦略的に縮む」という手法について、地域間での格差に注目、人口が激減する大多数の「地方」と減少が比較的抑えられる「市街地」という2極化が進展するという想定のもとに、具体的な都市の人口動態の解説と、それに対応する処方箋を記している。

 

 まず前提にあるのは、現在の47都道府県という枠組みは維持できないという点。2045年時点では、鳥取県の人口が44万人、高知県も50万人を割り込む一方、東京都は1360万人、神奈川県も831万人を抱える、実に30倍以上の格差を抱える都道府県を横並びにするのは無理がある(p126)からだ。

 さらに具体例を出すと、人口減少率トップの奈良県川上村は村民が270人まで落ち込むという。これはもはや「自治体」ではなく「自治会」レベルである。

 一方で、22年連続で人口が増加、20代の女性も転入超過にある名古屋市もその将来には懸念があるという。その最大の要因はリニア中央新幹線の開業だ。意外とも思える考察だが、わずか40分ほどで東京圏とつながることで、大都市に人口が吸い上げられる「ストロー現象」が起きかねない(p71)という指摘は考えさせられた。

 

 また地方では、政府・自治体が進めるコンパクトシティ政策とは関係なく、高齢者を中心に自然現象的に「買い物や医療機関へのアクセスの良い市街地への人口集中が進む」(p198)という見立ても納得がいった。全国的に見れば、富山市のような自治体主導でコンパクトシティがうまく機能する都市の方が少数派になるだろう。

 

 こういう事態が進行するなかで、著者が提言するのが「ドット型国家」だ。既存の市町村の枠組みに囚われずに、もっと狭いエリアで地域の特性を生かした「ミニ国家(王国)」のようなエリアを作るというものだ。
 モデルとなるのはイタリアのソロメオ村だ。高級カシミアを地場産業とし、小規模ながら「人間主義的な経営」と一体化した街づくりを実現しているという(p233)。

 

 著者は、この「王国」構想を含めて、人口減少に耐えうる社会を築くために日本がなすべきこととして「5つの視点」を提言している。
 面白いと思ったのは、5番目の巨大な人口を抱える東京圏を名実ともに外国扱いとし、「特区」にしてしまうという発想。相対するのは「地方」ではなく「海外」となるので、国際競争力を高めるために大胆な規制緩和を徹底すべき(p246)としている。
地方活性化のために沖縄を特区に設定したのとは正反対の考えだ。

 

 「ただでさえ地方とは格差のある東京圏をさらに発展させてどうする」という批判には、「東京の一極集中には歯止めがかけられない現実がある。一極集中の是正にエネルギーを注ぎ、時間を費やす時間的余裕は日本にはない以上、地方は東京と共存する道を探る方が現実的だ」と説明している。

 人口統計に関する膨大な公開資料を一人で分析し、元となる地方自治体ごとのデータを分析、国としての方向性にまとめ上げて客観的に丁寧に解説する姿勢には頭が下がる。
 それだけに著者の提言する日本の人口問題への処方箋には、十分な説得力があると思う。