如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

タワーマンションの寿命は実質30年だ

限界のタワーマンション(集英社新書) 


榊 淳司

 

 2000年以降タワーマンションが続々と建設され、俗にいう「タワマン」ブームが始まった頃からこの潮流に疑問を抱いていたマンション専門家である著者の「アンチ・タワマン」総力本である。

 

 著者の言い分を簡単にまとめると「タワーマンションは不完全かつ無責任な住居だ。買い手は認識を改める必要がある」ということだ。

 売り手は、企業として販売して利益を稼げばいいので、その後のことには関知しない。行政も住民が増えることは税収増に繋がるので基本的に容認だ。要するに買い手が欲しがるから、デベロッパーが作って売るのである。

 そこにはタワマンの抱える数々の問題などへの考慮という視点はない。

 

 「はじめに」に書かれているが、タワマンの大規模修繕は通常のマンションの2倍の費用がかかる。15年目の第一回の改修で積立金を使い切り、給排水管やエレベーターの交換が必要になる2回目の大規模修繕が予定通り進まないタワマンはかなり多いはず、という著者の考察が本レビューのタイトル「寿命30年」の根拠だ。

 

 第一章以降で、「迷惑施設化」「大規模修繕」「災害」「子育てのリスク」というテーマを4章に分けてそれぞれの観点から、タワマンの「悲劇」を具体的に紹介している。

 

 印象に残った部分を紹介すると、第二章の具体例の二番目に、築一年で東日本大震災の被害を被った多摩エリアのあるマンションの管理組合が、無償での補修工事を施工会社に要求したところ、会社側は「これは地震が原因だ」として補修費用1億数千万円を請求、管理組合は区分所有者から一時金を徴収して支払ったそうだ。

 

 著者はこの背景には、売主や管理会社からの「施工不良が明らかになると資産価値に悪影響が出ることなる」という「脅し文句」に乗せられて、所有者も管理組合も泣き寝入りしている実態がある(p84)としている。

 

 実はこの話には続きがあって、この一件から数年後今度は多摩地区に猛烈な台風が襲来、このタワマンの低層階の外壁タイルパネルが剥離、落下する、という事件が起きている。幸いなことにケガ人は出なかったようだが、落下部一帯を立ち入り禁止にして急遽補修したらしい。

このマンション、業界内では知らない人はいないはずだが、著者は諸般の事情もあって実名は明かせないだろうから、M駅に近いMタワーのことだとヒントをさりげなく書いておく。

 

 他にも、タワマンのマイナス点をこれでもかというほど解説しているので、購入予定者には気分の悪くなる内容かもしれない。

 ただ「憧れ」と「優越感」はどちらかと言えば一時的なものであるのに対して、「生活」と「ローン」は数十年続くものである。ここは冷静にタワマンと自分の将来を見据えるべきだろう。

 

最後に本書から、賃貸マンションか一戸建てを購入する人が多いというマンション業界人の言葉を紹介したい。「マンションは売るモノであって、買うのはお客さんだよ」(p68)。