如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

タワマン支持派の苦し紛れの反撃が始まった

 昨年中ごろまでは、都心のマンション、特に湾岸部を中心とするタワーマンションの人気が続いていたが、今年に入ってタワーマンションへの逆風が吹き始めた。

 

 この流れを決定づけたのは、6月に出版された榊 淳司氏の「限界のタワーマンション だろう。

 

 本がタワマンの「不都合な真実」をこれでもかと指摘したことで、これまで「憧れ」「優越感」からタワマンを志向していた層が、冷静になって購入する物件の見直しを考える人が出始めたことは、Amazonの本書の読者レビューからも読み取れる。

 

 ちなみに、私自身タワマンのメリット、デメリットについては、一時29階建てのタワマンの22階に2年ほど賃貸住まいしていた経験があるので、十分に認識している。

 

 私は「限界のタワーマンション」についても、出版と同時に購入、内容を高く評価するレビューを書いたところ、50人以上の「役に立った」投票があり、レビューとしてトップ評価をいただいている。

 

 この本に追随するようにタワマンの暗い未来を解説する記事が各種メディアで見られるようになったが、最新の代表記事は「2022年、タワマンの「大量廃墟化」が始まることをご存じですか」で、8月17日の現代ビジネスに掲載された。

 記事の最後で「建設ピークを迎えた'08年に建てられたタワマンが、15年目になるのは2022年。まさにこれからタワマンの問題は深刻化する。あなたは、それでもまだタワマンを買いますか?」と、結んでいるように、タワマン購入予定者に対して明確に警鐘を鳴らしている。

 

 一方、こうした流れを受けて、タワマンの住人やデベロッパー、販売会社関連の「タワマン支持派もしくは推進派」と思われる人たちからの反論も増えてきた。

 

 その代表例が、WebサイトOTONA LIFE(オトナライフ)である。Webニュースサイト「ビジネスジャーナル」に記事の一部が掲載されることも多いので、そこからリンクしてくる人も多いはずだ。

 まず最初は、7月6日に掲載された「タワーマンションには足場が組めない、修繕費が莫大で足りなくなり資産価値が落ちる?」である。

 記事では費用総額は一戸当たり月額9000円にすぎないとしており、多額ではないと主張している。実際、工事費用は修繕積立金の範囲で収まったようだが、これはあくまで1回目の大規模修繕。

 問題は、配管やエレベーターなど費用が膨れ上がる二回目以降の大規模修繕なのだ。特にエレベーターは個々のタワマン専用の高速仕様になっているうえ、当然ながら30年前に比べて機能も進化しており価格は高い。独自仕様なので同業他社との相見積もりもできない。

 

 これに続くのが、7月30日に掲載された「タワマンに住むと不健康になるという噂は本当?」である。内容はまさに榊氏が著者で指摘した「健康面での被害」に反論している。内容については読者の判断に任せたい。

 

 そしてトドメが、8月18日の「筆者が住んでわかった!タワマンに住むメリットはこんなにあった!」である。記事前半では、高層階なので蚊が出ない、があるのでゴキブリが出ない、ことを評価している。私が住んでいたタワマンにはディスポーザーはなかったので、ゴキブリは生息していた。

 ちなみに生ゴミ以外のリビングのお菓子の残りカスでもゴキブリは生きられると思うのだが。

 

 記事後半では管理組合について言及、「筆者のタワマンでは、管理組合の理事が弁護士、税理士、建築関係者など専門知識が豊富で有能な人材で占められており」としているが、このような人材豊富なタワマンは少数派ではないだろうか。

 

 そもそも最上階と下層階では10倍以上価格が異なるタワマンでは、職業も年収も価値観も全く異なる人たちが住んでおり、「意識高い系」の理事が資産価値維持のための背策を打ち出しても、費用負担に耐えられない世帯も多いはずだ。

 しかもここ数年、湾岸のタワマンを購入した層には投資目的の中国系の外国人が含まれており、彼らを含めた合意形成には相当な時間と手間がかかるだろう。

 

 先の「限界のタワーマンション」では、多額の費用がかかる2回目の大規模修繕ができないタワマンの発生を危惧しているが、大規模修繕は2回では終わらない。その後も15年間隔で実施する必要があり、しかもその費用は増大する一方。

 管理費等が払えず売却、老朽化したタワマンから新築へ引っ越し、戸建てへの住み替えなど、新築当時の人気を維持できるタワマンはほとんどないずだ。

 

 大手デベロッパー出身でマンション事情に詳しいオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏は、その著者で、過疎化した郊外のニュータウンを引き合いに出して、「ニュータウンは横に広がった過疎化だが、タワマンは上に伸びた過疎化になる」という趣旨の指摘をしている。

 

 街としての歴史も、文化もなく、海抜ゼロメートルの埋め立て地に立てられた「タワマン」という名のコンクリートの建造物が、専門家のいうように100年後も価値を維持し、何ら問題を抱えていない住民が集まっているとは、私には到底思えない。