如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

観光は有望な事業になりうるが、弊害も多大。「適切な」管理、制限は不可欠

 

観光亡国論

アレックス・カー, 清野 由美

2019年3月11日

 著者のアレックス・カー氏は来日して55年、自ら築300年の古民家を購入し、地域再生コンサル等を手掛け
る「観光」の専門家である。

 本書では、政府主導で「観光立国」を目指す日本が観光客の急増に対応できず、「観光公害」が引き起こさ
れ、その結果「観光亡国」に局面に入った、との危機感から、日本を含む世界の観光地で何が起きていて、ど
こに問題があって、どのように対応すべきかを解説している。

 その切り口は、「宿泊」「オーバーキャパシティ」「交通」「マナー」など多岐にわたるが、共通する問題
として著者が指摘するのは、観光政策には「適切なマネージメントとコントロールが必要」ということだ。

 マネージメント(管理)、コントロール(制限)というと、役所や業者は「〇〇禁止」の看板を乱発したり、
景観を無視したコンクリート建造物を設置という方向に向かいがちだが、著者が説くのは従来の法律や慣習を
乗り越えた「創造的」な解決案だ。

 失策の原因として挙げられるのが、日本の観光業が高度成長時代の「量を重視する観光」が根を張っていて、
「質を重視する観光」に対応できていないこと。観光産業の目標や成果をいまだに何万人という「人数」で測
るのがその見本だ。

 また、典型的な事例として、奄美大島の大型クルーズ船の寄港地建設計画がある。奄美市の人口が4万人強
のところに、7000人規模の中国からの観光客を誘致する案だが、「現地には観光客を受け入れる施設はなにも
ない状態」(p169)で、税金を投入するお決まりのハコモノ公共工事は必至。

 しかもクルーズ船の観光客は、宿泊、食事などを船内で済ませる傾向が強く、「クルーズ船の観光客の使う
お金の56%はクルーズ船に還流する」(p173)という調査結果も紹介している。多額の税金を使って、潤う
のは「建設・土木業者」と「クルーズ船の運営会社」なのだ。

 こうした既存の観光業の在り方に対して、著者が提案するのは「ゾーニング」と「小型観光」。

 ゾーニングとは「分別」という意味で、観光という見地から文化の価値を見据えて、「どこに何を作るのか、
作らせないかを決めていくこと」(p176)。これには関係者の「知性」と「意識」が不可欠だとしている。

 小型観光の方は、文字通りの意味だが、おカネをより使ってくれそうに思える大型バス等の観光客は、名所
を次々と回る(これは土産物屋からのキックバック狙いが主因と思われる)ため滞在時間が少なく、観光地で
もトイレを使って、缶飲料を自販機で買って、ゴミを捨てて、インスタグラムの写真を撮っておしまい、とい
うせいぜい数百円程度の消費しかしないことが多いそうだ。

 小型観光をターゲットにすれば、大型の駐車場や道路の拡幅も不要、本当に来たい旅行者だけがきてくれる
という本来あるべき効果も見込めるらしい。

 日本には全国に、まだまだ未開発の魅力的な観光地は多く残されていると思う。観光で地域を振興させるの
は構わないが、関係者には「量の観光」から「質の観光」へと意識改革を進めて、より多くの旅行客に日本の
本来の魅力を知ってほしいと思う。

 補足になるが、日本人得意の「おもてなし」も少人数の観光客を相手にしてこそ、その本領が発揮できるの
ではないだろうか。