如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

AI失業は30年前から始まっており、今後さらに加速する

 

「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること

2018年8月19日

 AIの普及による仕事への影響については、世間では「限定的で恐れることはない」という楽観的な意見と
「相当量の仕事が不要になる」という悲観的な見方に分かれているように見えるが、前者は「向こう数年」、
後者は「数十年先」というように時間軸が異なっているのではないか思っている。

 ちなみに本書は、「5年以内に正社員のホワイトカラーの仕事が激減する」という立場を取っている。

 著者は、AI失業は「運輸」と「金融」業界から始まるとしている。その理由として兆円単位の開発費用がか
かるAI開発のコストを回収できる市場規模があるのは、この2業界ぐらいであるためだ。

 確かに、自動運転の実用化に伴い影響を受けるのは、陸運などの配送業者、バス・タクシー業界であり、そ
の労働者数は123万人に達するという。

 また、金融業界も昨年メガバンクが数万人規模の仕事を削減すると発表しており、今後地銀、信金・信組が
追随することを想定すれば、やはり数十万人規模のリストラが免れないだろう。

 問題は、第4章にあるように、配車アプリ「ウーバー」が日本では規制されるなど、グローバルな経済のダ
イナミクスから置き去りにされ、古いテクノロジーに固執するガラパゴスな社会に堕ちていく可能性があるこ
とだ。
 配車アプリなどによって、家庭で使用されない時間帯の自動車のシェア利用が進むことで、自動車が減り、
ガソリンやCo2排出の削減が実現すれば、対応できない日本への国際的な批判が生じる可能性もある。これは、
医師や弁護士など高度なスキルを持つ業界も無関係ではないだろう。

 ただ現実には、著者が指摘するように、政府が失業対策として、AI利用には既存の労働者が必ず立ち会う
(自動運転車の助手席にはタクシー運転手が同乗するなど)ことを義務化することで、雇用への影響は軽減さ
れる可能性が高いだろう。それに伴う高コストが許容されるかどうかは国民の選択に委ねられそうだ。

 最後に本書では、AIが進展する10年後にも生き残れる仕事が3つある、としている。詳細は読んでもらうと
して、その一つを紹介すると「人間の心に働きかけるコミュニケーション能力」である。個人的にはこれも
「どこまで働きかけるか」という程度問題だとは思うのだが、まあ方向性としては間違っていないと思う。

 本書全体を通じてその根底にあるのは、「人工知能による仕事消滅は30年前から始まっていて、現在進行形
で日々その勢いを増しつつある」(はじめに)ということだ。

 今後のAIの進展や影響を考えるうえで、これまでの仕事がOA化や非正規化によってどう変化してきたかを
再確認することは、重要な意味があると感じた。