如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

奨励会の実態を「やや斜め」から解説、棋士のコスパは意外にいい?

 

奨励会 ~将棋プロ棋士への細い道~

2018年6月28日

 藤井聡太七段の活躍で将棋界が注目を集めるなか、プロ棋士の養成機関である「奨励会」に15歳から4年間
在籍、その後波乱の人生を送りつつも小説家としてデビューした著者が、元奨励会員として現在の奨励会の仕
組みや、職業としての棋士の現状を解説する本である。
 
 私自身は将棋のルールを知っているぐらいで、人に言えるレベルではないのだが、プロ棋士の仕事ぶりや年
収など、また奨励会についても実態はほとんど知らなかったので参考になった。

 ただ、これは著者の人生が関係しているのか不明だが、「やや斜め」に構えた分析が多いと感じた。

 例えば、プロ棋士は収入面では上位50位以内(B級2組以上)にいれば収入面で相当割に合う職業だとしてい
るが、その根拠として中位棋士だと年間30-40局程度の対局しかなく、一派の会社員に比べて時間的拘束が少な
いうえ、副業が自由ということを挙げている。

 確かに年間40日の実働日数というのは、サラリーマンの勤務日数(週休2日として約250日)と比べれば圧
倒的に少ないが、日々の研究などの時間、常に降格というプレッシャーに向かい合う厳しさを考慮すると、必
ずしも「楽」ではないだろう。副業も向き不向きがあるはずだ。

 また著者は、現役奨励会員への質問票にあった「プロを目指していない人も割といます」という回答を紹介
している。

 小説や漫画では「奨励会の非情や厳しさ」をテーマにした内容が比較的多いと思っていたので、このような
考え方をする奨励会員がいることに驚いたが、現在の若者は「今は将棋が面白いからやっているけど、限界が
見えたり面白くなくなったら、すっぱりと別の道に切り替える」ことに躊躇はないようだ。

 まあ将棋界に留まらず、人材の流動化が全職業、職種で進んでいることの証だろう。

 あと、これは問題発言かもしれないのだが著者は「奨励会に八百長が絶対にない――とは言い切れない」と
述べている。

 その理由として三段リーグ戦も後半になると、昇段にも降段にもからまない会員の「消化試合」が多すぎる
ことを挙げている。個人的にはこれは「八百長」というよりは「無気力試合」と言うべきかと思うが、著者も
言うように、他の競技も含めて総当たり方式の「リーグ戦」の宿命という側面はあるだろう。

 同じプロとはいえ直接な関連性はないが、ちなみに私が嗜む競輪では、当該期の成績がほぼ固まって昇給も
降級もなくなった期間を含めて、選手が無気力なレースをすると「敢闘精神欠如」で、失格というキツいペナル
ティがある(一定期間レースに出場停止)。

 プロ棋士のコスパの良さ、奨励会の意外な実態など、これまであまり触れられることのなかった側面から将
棋の世界を解説するという点で、将棋界に多少とも関心があれば一読しておいて損はないと感じた。