如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

世界経済を俯瞰。日本の経済成長には技術開発力への直接投資が不可欠

 

世界経済入門

2018年8月28日

 世界経済における日本の現状と、米国、中国、東南アジア、EUの経済事情について簡潔に解説する本である。

 各章の論点をごく簡単にまとめると以下のようになる。

 第一章では、日本が経済成長を維持するには「技術開発力」が重要だが、フィンテック投資などで米中に大
きな後れを取っている。

 第二章では、日本の持つ多額の対外資産は収益性が低い「証券投資」が多い、今後は「直接投資」を増やし
て、貿易立国ではなく「投資立国」を目指すべきとし、また海外からの資本を受け入れ、経営者の構想を活発
にする必要がある。移民も同様である。

 第三章では、FTAやTPPは「仲良しクラブ」で、その実態は貿易自由化協定ではなく、「経済ブロック化協
定」である。日本は農業、人材、資本の完全自由化が望ましい。

 第四章では、為替レートと国際課税制度の仕組みが解説されているが、やや学術的な多く、重要ではあろう
が、特に目を引くような内容はなかった。

 ここまでは、世界経済の変化する流れのなかで日本がどう対応すべきかという内容だったが、第五章以降は、
各国の分析に入る。

 第五章は米国。その特徴として、大企業が製造業からIT関連企業に変遷したこと、フリーランサーが拡大し、
2027年には労働者の過半を占めること、中国への制裁課税を強化すれば国内の製品価格が上昇、消費への影響
は避けられないとしている。

 移民の制限についても、実施すればシリコンバレーで働く中国・インド人技術者の排斥となり経済をけん引
するIT企業は大きな影響を受けると論じている。

 第六章以降は、中国、東南アジア、ヨーロッパについてだが、詳しくは本書を読んで頂くとして、ここまで
の日本に関する著者の主張をまとめると以下のようになる。

 日本は、過去の成功例から自動車など一部の製造業への思い込みが根強いが、経済成長の主体はフィンテッ
クなどIT技術に移っている。過去に蓄積した膨大な対外債権はこれまでの「証券投資」から、こうした将来性
のある技術への「直接投資」に切り替えるべきだ。

 その過程で、日本と海外を自由に「モノ」「カネ」「ヒト」が行き来する自由貿易社会の実現に努めるのが
望ましい。

 となる。現在までの世界を見渡すと、強力な鎖国主義の国は減った代わりに、経済のブロック化(EU、FTA
など)の機運が一時高まったが、最近ではEUから英国が離脱、他国も追随する機運があるほか、米国のTPP離
脱など、ブロック化も破綻の兆しが出始めている。

 その最終到達点が、筆者の言う完全な「自由貿易主義」なのかどうかはわからない。

 ただ、現在の二大経済大国である米国と中国だが、米国のトランプ大統領が、矛盾を抱えた「米国第一主義
」を掲げて猛進する一方、中国は一党独裁体制において、市場経済とは相反する「一国二制度」政策をどこま
で維持できるかも疑問が残る。「一帯一路構想」も反中感情の強いベトナムやインドを取り込めるのかどうか
不透明感が強い。数年先はまだ先行きの見えない不安定な時代が続くだろう。

 米国は、これまでのように今後も世界の覇権を軍事面、政治・経済面から維持したいという意地があるだろ
うし、中国は何としても米国を追い抜き、ユーラシア大陸を中心に世界に大きな影響を与える国家を目指すだ
ろう。その場合、今のようなFTA、TPPといった限定的な国々によるブロック経済圏ではなく、「アメリカ圏」
「中国圏」という2大ブロック圏に集約化される可能性もある。

 確実に問題となるのは、方針が不安定な大統領を抱える米国と、共産党体制の崩壊が視野に入ってくる中国
という2大国と、外交下手な日本が今後どのようにうまく渡り合って行くかだろう。

 どちらが勝っても負けても日本にとって「良い結果」に結びつけるのは難しそうだが。