如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

投資理論の基礎固めには良書だが、米ダウ30種平均株価を過大評価?

 

人生100年時代の正しい資産づくり

岩崎日出俊

2019年4月1日

 米系投資銀行のマネージング・ダイレクターを歴任、現在は独立して金融コンサル会社を手掛ける著者の、
個人向け投資理論の解説本である。

 「まえがき」に書かれているが、本書では、グローバル、時間分散など4つの「基本的な考え方」について
解説することを目的としており、具体的なデータを引用した説明は比較的わかりやすい。

 とは言え、こう言っては身も蓋もないのだが「特段に目新しい投資手法やノウハウ」が載っているわけでは
ないのも事実。一通り投資を学んだり、経験した人は物足りなさを感じるかもしれない。

 また、数値データの説明が「文章」「数表」が中心で、「グラフ」「チャート」が少ないのもやや残念。

 内容で面白いと感じたのは、株価指数の日米比較でダウ30種平均の採用銘柄が2000年以降12社も入れ替わっ
た一方で、日経平均採用銘柄はほとんど入れ替えがないという指摘や、日本の値嵩株は1単位買うのに数百万
円になる半面、米国株は1株から投資可能で、ダウ平均の構成銘柄はすべて円ベースで4000円から3万6000円
の範囲に収まっている、といった意外に知られていない知識は参考になった。

 ただ日本に囚われず海外にも目を向けるべきという指摘には同意するが、全体を通じて米国株さらに言えば
ダウ30種平均株価に連動する投資信託への投資を勧める記述の配分が高いような気がした。同指数が数ある米
国株のなかでも特に優良な銘柄を組み入れているという事情は理解できるのだが。

 著者も当然この点には配慮していて、米国は「中国の台頭によって英国化する」、「日本のように高齢化、
人口減少社会になる」という巷にある懸念を払しょくする解説を展開している。
 
 その内容自体に特におかしいと思える点はないのだが、米国ファースト主義のトランプ政権の先行きや、65
ページにあるダウ平均株価の40年チャートをみると、「現時点で最高値圏にある米国株にここから投資するの
はどうなの?」と、非論理的な見方と言われそうだが悩んでしまう向きは多いのではないか。

 まあ投資対象を、他の先進国を含むMSCIコクサイ指数に変更したり、投資タイミングの時間分散を行うこ
とでリスク回避はかなり可能だとは思うが。

 読後の感想を言えば、現在の自分自身のポートフォリオがほぼ日本物(株式とREIT)で占められて点は改善
が必要だと感じたが、どうにも割高感の拭えないダウ30種平均よりは、MSCIコクサイもしくは、インドや一
部の東南アジア(ベトナムなど)への投資に振り向けた方がより将来性は期待できそうな気がする。

 新興国ファンドを買うという手もあるが、結果ポートフォリオが中国に集中することは、同国の政治・経済
状況の先行き不透明感を考えると避けたい。
 
 また、若い世代にとっては今後数十年の単位で投資することを考えれば、著者の指摘する日本独特の「地震
リスク」は避けて通れない問題だ。投資配分の一定比率を日本経済の影響から遮断する必要性は不可欠だろう。