如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

現代は、いじめが増加した社会ではなく、いじめが問題視される社会である

いじめを生む教室 子どもを守るために知っておきたいデータと知識

2018年9月6日

 過去に例のないような「いじめ」が原因で子供が自殺すると、マスコミでは「いじめが激増している、凶悪
化している」といった報道がされるが、実際のところは「いじめの発生件数」をデータ化した統計はないそう
だ。

 よく引き合いに出される文部科学省の「児童生徒の問題行動等・・・に関する調査」では、確かに大きない
め事件があると件数が急増しているが、この件数はいじめの「発生件数」ではなく、先生が「認知した件
数」のなかで、さらに「監督機関に報告した件」であり、しかも事件直後は先生を中心に調査をしっかりとす
るために「報告件数」が上がるのだという。確かに、P19のグラフを見ても一時的に急増する年度はあっても、
その後は落ち着きを取り戻している。
 
 著者は、いじめの増減について確定したことは言いにくいとしているが、「いじめが増加した社会」ではな
く「いじめが問題視されるようになった社会」であることは事実で、これはとても良いことだとしている。

 私自身この定義は納得できるし、「いじめ」を可視化することで、問題解決への共通認識が深まることも期
待できると思う。

 また本書では、データを元に様々な事実を明らかにしているが、一番驚いたのは「いじめを受けた児童・生
徒が9割」もある一方で、「いじめに加担したことのある児童・生徒も9割」いるという事実だ。多くは「被害
者」であると同時に「加害者」でもあるのだ。

 著者は、生徒間及び先生との関係が良好な「ご機嫌な教室」はいじめが少なく、逆の「不機嫌な教室」には
いじめが起きやすいとしている。そして「ご機嫌な教室」にするには、「わかりやすい授業」「適切なルール
の共有」「生徒のストレスを取り除く」など7つの解決策を挙げている。

 いずれも当たり前と言えば当たり前の方策ではあるが、問題は教師が他に抱える仕事が多く、いじめにだけ
特別に対応する時間的な余裕がないことだろう。P207のデータによれば中学校教師が学校にいる時間は、
1997年の10時間58分から2016年には12時間30分と、1時間30分以上伸びている。
 
 この背景には著者が言うように、行政府が〇〇改革をうたう際に、合理化・民営化という無駄な作業を手放
すという方向に向かうが、こと教育改革になると「あれもやろう」「これもやろう」という加算式の論議にな
りがちだという側面は確かにあると思った。

 大量の国債残高を抱えて厳しい財政事情ではあるが、来秋実施予定の消費増税では、少子化対策として未就
学児童への予算配分も予定されている。将来の日本を背負うという意味では、現在の小学生、中学生への「い
じめ対策」に予算をかけることも、結果として質の高い人間を育てるという「良い投資」になると思うのだが。