如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

60歳前後限定の生活アドバイス。無理な人付き合いは「拷問」だ

 

俺たちの定年後 - 成毛流60歳からの生き方指南 -

成毛 眞

2018年11月9日

 本書の特徴は、現在60代の著者が定年後生活のちょっと先輩として、これから定年を迎える60歳前後のサラ
リーマンに向けて特化している、という点にある。

「はじめに」で「いま40歳代の人の定年後の生活には参考にならない」と書いていることからもその意図は明
確だ。

 第1章では、定年後は新たに「好きなこと」をすべきとしている。とはいえサラリーマン生活がしみ込んだ
身体には「何が好きなことなのか」分からない人も多い訳で、著者は好き勝手に遊んでいた子供時代の脳(関
心事)を取り戻すことを勧めている。

 第2章のテーマは「サラリーマン的生活は捨てろ」。ここで著者が勧めるのは「一週間の始まりを金曜日に
する」という生活リズムの変化。つまり週末を水曜、木曜とすることで、混んだ街や観光地を回避できるうえ、
映画、スーパー銭湯など各種施設の割引があってお得だということだ。居酒屋のハッピーアワーも楽しめる。

 また、「スマホを買う」というアドバイスも情報収集のツールとして大きな価値があるだろう。通話に加え
検索、カメラの機能をひとつにコンパクトにまとめたスマホの有用性は確かだ。

 ただ個人的にはスマホ1台よりも「折り畳み式のガラケーとタブレットの2台持ち」を推奨したい。

というのは、スマホでも情報収集は可能だがいかんせん画面が小さすぎるのである。これは老眼の進んだシニ
ア層には結構キツイ。タブレットなら画面は最低でも8インチはあるので見やすさのレベルが違う。

 ちなみに私はガラケーはストラップを付けて首から下げて、胸ポケットに入れている。これだと着信にすぐ
に対応できるし、電話をかける相手はほぼ決まっているので、登録されたボタンひとつで発信できるのは、ア
プリを立ち上げる必要があるスマホより確実に便利だ。

 加えて、タブレットには「一覧性の優位」がある。例えば著者がお金を払っても購読すべきとしている「日
本経済新聞電子版」だが、スマホだとニュースが2本しか表示されない(スクロールは可能だが)。一方タブ
レットだと本文の一部を含めたニュース見出しが6本、画面右側には速報の見出しが10本表示される。

 個人的には、本来新聞の価値は掲載される記事をその重要度から取捨選択してくれることにあると思ってい
る(特に一面のトップなど)。
 この取捨選択の結果が2本のニュースではやや物足りない。トップページで16本の各記事を比較することで
その日の出来事の全体像が見えてくるというメリットは捨てがたい。

 2台持ちをすると「携帯するのに荷物になる」という意見もあるが、著者も本書後半でスマホ用の携帯バッ
テリーの携行を勧めており、負担はあまり変わらない。しかもガラケーなら充電なしで一週間、タブレットで
もスマホよりは断然電池がもつ。

 また、共感したのは第4章の「60歳からは愛想よくしようなんて考えるな」。

 最近シニア層の孤独が問題視され、コミュニティに参加すべきだという論調が広まっているが、著者は「人
付き合いが苦手な人に新しいコミュニティを探して上手くやれというのは、拷問に近い」と断じている。

 これはまさに著者の言う通りである。そもそもこれまでのサラリーマン生活でイヤな上司や面倒な部下に対
して、自分を押し殺していたのは「仕事」のためだ。その仕事から解放されたのだから、自分の好きなように
自分一人で生活を楽しんで何も悪いことはないのだ。コミュニティうんぬんなど大きなお世話である。

 第5章では、自分の生活を拡張するツールとして、双眼鏡、温湿度計などが紹介されている。ここで著者は
ゲーム機プレイステーション4(PS4)のVRを勧めている。確かにこのVRは実際に経験しないと理解できな
い最先端の技術で、面白いのは確かなのだが、PS4でVR環境をそろえると10万円近い出費となる。

 個人的なオススメは、「Oculus Go」だ。日本に代理店がないので米国から海外通販を利用することになる
が、価格は送料込みで23800円だ。しかもPS4と異なり、ゲーム機本体とケーブルで接続する手間がなく、
単体で機能する。これはいちいちゲーム機の前まで行かず、ベッドで気軽にVRを楽しめる点でもメリットが
大きい。

 最後に、著者は「定年後にやりたいことをやり、やりたくないことはやらない。全く違うことをするのも、
何もしないのも自由」だと締めくくってる。

 ここで重要なのは、「定年後の人生の選択肢は自分にある」ことを再認識するということだろう。本書で
の著者の様々なアドバイスを含めて、他者の意見を参考にするのも無視するのも「自由」だということだ。

 この「自由」を最大限に生かすには、定年後からでは遅いだろう。定年の数年前から自分の将来像を予想し
て、その準備を進める必要がある。ちょっと面倒くささを感じるかも知れないが、自分の人生の質(QOL)に
直結すると考えれば、真剣に検討せざるを得ないはずだ。