クラウドソーシングで生活する「若者の実情」(東洋経済オンライン)
藤田 和恵 : ジャーナリスト
大卒の就職率が高水準にあるなか、あえてフリーランスを選択するという新卒を紹介する記事「クラウドソーシングで生活する『若者の実情』」が7月10日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
記事よれば登場する男性は、今年大学を卒業したばかりで、千葉の海岸沿いのコワーキングスペースで、クラウドソーシングによって原稿執筆の仕事を得ているという。
ちなみに月に記事を50本書いて手元に残るのは15-20万円、毎月の生活費は6万円で、食費は1日600円だそうだ。
希望する企業や業界に入れず、不本意ながら非正規雇用・フリーターとなる新卒は珍しくないが、新卒で自ら望んでフリーランスになるというのはまだ少数派なのは確かだろう。自立性、主体性という点で非正規等とは明らかに異なる。
収入や生活などの不安よりも、「自分で稼げるスキルを身に着けるのを優先した結果」(本文より)なのだが、彼のようなミニマムな生活基盤でも食べていける実例を記事で紹介したことの意味は大きいのではないだろうか。
しかも彼の場合、国民年金の免除も税金の青色申告も済ませており、「自分で選んだ仕事環境に関する必要な手続きは自分でする」という関係する社会制度に正面から向かい合っている点も、単なる受け身のフリーターとは人生に対する真剣度合いが格段に違う。
著者が言うように、彼のような労働者・生活者は確かにマクロ的に個人消費への拡大効果は少ないが、そもそも少子高齢化・人口減少の進むなかで、今後の経済成長を期待するのにやや無理がある。
物欲や結婚願望がない世代のこういう「割り切った」生き方が徐々に認知されていくのは当然かもしれない。
ただ気になったのは、クラウドソーシングでの請負業務を続けていて、スキルがどの程度向上し、それが将来どれほど労働市場で評価されるのかという点。
会社の被雇用者ではなく、個人事業主という就労形態である以上、「1文字0.1円」などでこき使われている現状が、著者のいうように「フリーランスの最低報酬額の保証」といった労働環境の改善につながる可能性は低い。
最近ではAmazonが宅配事業を個人事業主に委託していることが話題になったが、雇用保険や労災制度もない彼らが、体力、能力の限界が来て一方的に契約解除となることを想定すると、その人生の将来性はかなり危ういと思わざるを得ない。