来年4月に京都市にある大学の名称変わることが注目を集めている。
その名は「京都造形芸術大学」。変更後の名称は「京都芸術大学」だ。来年開学30周年を迎える新しい私立大学だ。すでに文部科学省に名称変更の認可も受けているらしい。
何が話題になっているかというと、同じ京都市には「京都市立芸術大学」という1880年開設の日本で最も長い歴史を持つ芸術大学があるのだ。ちなみに略称は「京芸」もしくは「京都芸大」が一般的らしい。
この2つの大学、ともに芸術系ではあるが、歴史、難易度、特徴などが全然異なるというか比較の対象にならないレベルなのだ。
ちなみに京都市立芸術大学は、西日本の国公立の芸術系では最も難易度が高い。河合塾の入試難易予想ランキングでは、国立の東京芸術大学やお茶の水女子大学の一部の学部とほぼ同レベルだ。大学関係者の間では、芸術系では東の「東京芸大」、西の「京都芸大」とも呼ばれているらしい。
一方、京都造形芸術大学は私立なので国公立とは難易度は単純に比較はできないが、同じ河合塾のランキングによれば、芸術学部の最も難易度の高い学科でも偏差値は42.5、マンガ学科に至っては35.0と最低ランクだ。
京都造形芸術大学は、27日付けのWebサイトの「お知らせ」で、将来構想「グランドデザイン2030」を策定し、「芸術立国」の実現、「音楽」などへの領域拡充などを掲げ、日本最大規模の芸術大学として、京都から世界を目指す、としている。この政策の一環として大学名の変更が含まれているという仕掛けだ。
まあ、私立大学がどのような目標を掲げようが基本的に自由ではあるが、現在の同大学の置かれた地位を見る客観的に見る限り、目標実現のための「大学名称変更」ではなく、まず最初に「大学名称の変更」があって、その理由付けのための「形だけの目標」にしか思えない。
「お知らせ」の最後には、略称として「京芸」「京都芸大」は使用しない、としているが、名称変更後の学生が大学名を聞かれて、「市立ではない京都芸大です」とか「旧京都造形芸術大学です」などとわざわざ答えるだろうか。大学がいくら使用しないと言っても学生は、普通に「京都芸大です」と答えるだろう。決して間違っている訳ではないのだから。
ちなみに現在の略称は「京造」「京都造形大」だそうだ。
混乱を招くのは必然であることから、28日付けの産経デジタル「IZA」では「京都市立芸術大は『大きな混乱を招く』と反対している。同大の赤松玉女(たまめ)理事長は『中止再考をお願いしてきたが、聞き届けていただけず残念』とコメント。大学関係者は『当事者間で解決できなければ法的措置も検討している』とする」との見解を掲載している。
同記事によれば、「京都市の門川大作市長も『驚愕(きょうがく)している』と問題視」しているそうだ。
結論から言えば、あまりにも「稚拙」かつ「安易」かつ「姑息」な大学経営者の発想に基づく行動だと思う。誰が見ても、歴史と実績のある「京都市立芸術大学」という看板の威光を借りるだけの「コバンザメ」商法としか思えない。
想像するに、少子化で将来の見通しが立たない最低ランクの大学が、世間の批判覚悟でイチかバチかの賭けに出たというのが実態だろう。
確かに今回のように話題になるだけでも、名前に惹かれて来年受験・入学する学生は増えるかもしれない。
ただいくら「芸術系」の大学だと言っても、その構想があまりにも「現実」からかけ離れているだけに、講義など教育レベルが一気に上がり、学生の実力も向上、大学の評価が急上昇することはないだろう。
ちなみに東京にも、「東京」と「工」の両方の文字が入る大学は4つある。国立では、母体が明治7年設立の「東京農工大学」と、同14年設立の「東京工業大学」の2つ。農工大の工学部が元々繊維学部を改称したのに対して、東工大は工業教育機関を母体としている。
私立では、「東京工科大学」と「東京工芸大学」の2つがあるが、工科大は日本で初のメディア学部を開設するなど新たな分野に進出する一方、工芸大はもともと写真の印画紙を手掛けた小西六(現コニカミノルタ)が設立した写真学校を母体にしており、専門は大きく異なる。
というように、東京では大学名が似ていても専門分野が異なるので、大きな混乱を招くことは、ほとんどないと言っていい。
恥も外聞も捨てて勝負に出た京都造形芸術大学の「大学名称変更大作戦」は成功するのだろうか。