ウーバーは日本のライドシェアを断念したのか(東洋経済オンライン)
中野 大樹 : 東洋経済 記者
配車アプリで世界最大手のウーバー・テクノロジーの日本法人ウーバー・テクノロジーのゼネラルマネージャーに日本での今後の事業戦略を聞くインタビュー記事「ウーバーは日本のライドシェアを断念したのか」が8月30日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
一般のドライバーが自家用車を用いて有償で乗客を運ぶ「ライドシェア事業」は、米国などでは普及していて、ごく普通に日常生活に溶け込んでいるようだが、日本では法律で認められていない。
ウーバーもかつて日本を含むアジア市場に進出したが、日本では2015年に、中国では2016年に、最終的に東南アジアからは2018年に全面撤退した(ウィキペディアより)。
私も東南アジアにかつて数年滞在した経験があるので、現地のタクシー事情はある程度理解できる。
まず、相手が日本人だとわかると「メーターを倒さない」「あえて遠回り」はごく当たり前、当然ながら割高なチップも必要。
最も不快だったのは、雨が降ると乗客が殺到するので、メーターどころか「運転手の言い値」で乗らざるを得ないこともしばしばだった。
こうした状況を踏まえると、ウーバーが導入した一般人が自家用車でタクシー事情を手掛けるのは、自宅の駐車場に無駄に放置されている自家用車の有効活用になるし、個人の副業手段が増えるというメリットもあると思う。
知らない他人の車に乗ったり、乗せたりというのは特に女性にとっては「危険行為」にも思えるが、ウーバーは運転手と顧客の「相互評価」というシステムで解決したようだ。
もっとも、ウーバーは例え法律が改正されても、日本でのライドシェア事業は「現実的ではない」と否定している。
理由は、個人運転手による配車事業をゼロから手掛けるよりは、日本のタクシー業界の「サービス」の優秀さを利用した方が得策という点にあるようだ。
言われてみれば、乗車・降車の際にドアが自動で開閉するのは日本のタクシーぐらいだし、領収書は黙っても渡してくれる。不愛想な運転手もだいぶ少なくなった。また、東京の場合、都内と一部地域では初乗り運賃は410円と、都下(730円)より安い。
しかも最近のタクシーは従来のセダンからトヨタのシエンタを改造した「JPNタクシー」が席巻しつつあり、乗降性や荷物の積み込みなどの利便性で好評のようだ。
ウーバーも、この日本ならではの利点を生かして「配車アプリ」専業に徹する方向のようだ。
すでにタクシー業界では最大手の第一交通産業と提携、他のタクシー業者とも東京では話を進めているようだが、東京都内では個人タクシーの台数が法人の半分以上を占める。
これは個人的な推測だが、業界大手4社で約20%を占める「大日本帝国」(大和自動車交通、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車)と交渉するよりも、個人業者と個別に優先して契約を積み上げるという手法をとるのではないだろうか。
記事では、ウーバーは単なる「配車」機能だけではなく、GPSでの追跡、スマホ画面を特定の色で光らせて目的のタクシーを見つけやすくする、といったテクノロジーを売りにしている。これも現在の日本の配車システムにはない優位性だ。
現時点では、タクシー業界の既得権益と、それを支える法律で日本での「配車」機能は限られているが、ウーバーの個人タクシーから始まる「配車アプリ」の攻勢で、タクシー業界の構図が変わる可能性はあると思う。