新たな総理大臣に就任する菅義偉氏が、政策の目玉のひとつとして掲げたのが「デジタル庁」の創設。メディアの報道によれば「各省庁に分散しているデータを統合し、柔軟に利活用できる仕組みを築く考え」のようで、マイナンバーカードのさらなる普及を含めた省庁の業務デジタル化による作業効率化を目指すようだ。
キャッシュレス決済など多くの物事のデジタル化では、世界的に後れを取っている日本にあって、この政策の方向性は正しい。あえて実現に向けた懸念要因を挙げるとすれば2つ。
ひとつは、デジタル化が「手段」でなく、「目的」になってしまい、業務の実態を理解せず「何でもかんでもデジタル」という現場を無視した無理な介入が行われること。
もう一つは、竹中IT担当大臣が日本の「はんこ文化」がテレワーク(在宅勤務)の妨げになっているとの指摘に対して「民・民の取引で支障になっているケースが多い」と述べるなど、政府や自治体には「自分たちには関係ない」といったデジタル化に消極的な姿勢が感じられることだ。特に省庁間を跨る案件についてはその傾向が強いようだ。
まあ手練手管の菅氏なので、その辺りの事情は十分に考慮したうえでの提言だろうし、関係省庁への説得にも自信は持っているのだろう。実際昨年5月には行政手続きを原則、電子申請に統一する「デジタルファースト法」が成立しており、政策実現のための仕掛けはすでに用意されている。
ただ、ここは実現への意気込みを強くアピールするために個人的な「提案」をしたい。それは菅・新総理自ら「自分の手元に届く書類には公私を問わず電子著名・捺印でしか承認しない」と宣言することだ。こうなれば、周囲の議員・役人や国民への本気度がかなり伝わるのではないだろうか。(閣議での花押は一種の儀式なので残したほうが良いと思うが)
一国のトップがここまで言えば、少なくとも政府内の業務デジタル化は加速せざるを得ないだろうし、そうなると地方自治体の対応も変わらざるを得なくなる。自治体がマイナンバーカードや電子捺印などを使ったデジタル化などを進めれば、自治体に書類で提出している民間企業や個人の各種証明書の申請にも波及する。
不動産取引のように重要事項説明書など書面でのやり取りと捺印・署名が法律で義務化されている業界も残されているが、一方で国土交通省では「IT重説」の実験も行われており、他の業界でも「契約を含むあらゆる書類のデジタル化」が進展していくのは間違いない。
「隗より始めよ」ではないが、菅・新総理は官邸での公文書は言うまでもなく、地元選挙区での有権者や近しい議員から要望・提案書などもデジタル書面化を要請し、紙の資料は一切承認しないぐらいの姿勢で取り組んではどうだろうか。この様子(特に支援者が紙を持ち込んで拒絶されるような場面)をYoutubeの動画で紹介していけば、デジタル化への国民の認知度と関心も高まると思う。
少なくとも民間の「書類へのハンコしか認めない時代錯誤の経営者や管理職」への効果は絶大ではないだろうか。
菅・新総理は、自民党の新総裁に選出された直後のあいさつで「役所の縦割り、既得権益、あしき前例を打破して、規制改革を進めていく」と訴えた。首相の公私を問わず「電子署名・捺印しか認めない」発言があれば、この政策の実現に弾みが付くことは間違いないと思うのだが。