如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

障がい者雇用に立ちふさがる達成企業率50%の壁

「障害者の雇用率」が高い上位100社ランキング(東洋経済オンライン)

村山 颯志郎 : 東洋経済データ事業局データベース3部

  

 毎年9月は障がい者雇用支援月間ということで、厚生労働省や自治体が協力して啓もう活動を行っている。

 10月7日付けの東洋経済オンラインには、障がい者雇用に力を入れている企業を特集した「『障害者の雇用率』が高い上位100社ランキング」が掲載された。

 

 現在、民間企業の障害者法定雇用率は2.2%だが、記事ではランキング上位5社の雇用状況を紹介している。1位の会社の雇用率は20.92%、2位も13.78%と規定値を大きく上回っているのが目を引く。

 

 意外なのは3位のエンターテインメントのエイベックス。同社のサイトにあるCSRレポート2017を見ると、障がい者のスポーツ活動支援事業を大きく紹介している。前回2016年のリオパラリンピックでは、単一企業として最多の選手(6名)を送り込み、文部化科学省から表彰もされている。来年の東京パラリンピックでも同社の選手が活躍し、障がい者支援に積極的な企業への評価が高まることを期待したい。

 

 また、5位にはユニクロのファーストリテイリングが入った。雇用率5.62%も立派だが、雇用者数も917人と人数では最大の日本電信電話(NTT)の939人に匹敵する障がい者を雇用している。

 同社はこれまで一部のマスコミでは内部告発という形で、過酷な労働環境が伝えられ批判も浴びたが、2012年度以降はほぼ国内全店で「1店舗1人以上の障害者を雇用」を実現しているという。

 まあ会長兼社長の柳井正氏のリーダーシップによるものだとは思うが、マスメディアは有名企業や大企業の「マイナス面」を取り上げるのには熱心だが、こうした「プラス面」も、評価すべきだと思う。

 

 ただこうした個別に頑張っている企業がある一方で、法定雇用率を達成する企業の比率は伸び悩んでいる。厚生労働省の「平成30年 障害者雇用状況の集計結果」によれば、平成以降で見ると、2年に52.2%となったのが最高で、その後は伸び悩み16年には41.7%まで低下した。29年には50.0%と50%台を回復したが、翌30年には45.9%と大きく落ち込んだ(p17)。

 ここ30年で見ると、法定雇用率を達成する企業の割合は50%の壁を乗り越えられないのが実態と言える。

 

 実際にランキングを見ても同率99位には雇用率2.59%の企業が6社もあり、義務である2.5%を何とか上回っている企業がいかに多いかを示している。

 

 厚生労働省は障がい者雇用に対して、様々な対策を講じている。具体的には「障害者雇用納付金制度」として、雇用率未達成企業から納付金を徴収し、雇用率達成企業に対して調整金、報奨金を支給するとともに、障害者の雇用の促進等を図るための各種の助成金を支給している。

  つまり「ムチとアメ」の両面でサポートしている訳だが、法定雇用率の達成企業が頭打ちな原因として2つ考えられる

 

 一つ目は「障がい者雇用」への理解度がまだ浸透しきれていないというか、会社側の受け入れ体制が整っていないという事情、もうひとつは、制度面の「ムチ」の弱さだろう。

 

 障がい者雇用への理解は進みつつあるものの、実際に仕事をしてもらうにあたって「どのような」仕事を「どのように」任せればいいのか、まだ手探り状態の会社は少ないだろう。

 特に平成18年以降は、それまでの「身体障がい者」「知的障がい者」に加えて「精神障がい者」が対象になっており、一見して他の障がいに比べて障がいの内容が掴みにくいことも影響している可能性はある。これは時間をかけて解消させていくしかないだろう。

 

 もうひとつの要因である「ムチ」だが、雇用率未達成の場合不足一人当たり月額5万円が徴収される。これが高いか低いかは議論の余地があるだろうが、経営者が労働生産性を重視して「納付金を支払ってもそれ以上の利益を稼げげれば構わない」と考えている場合は、このままでは効果は望み薄だろう。

 

 もっとも、未達成企業に対しては、「適正実施勧告」「特別指導」を経て、改善が見られない場合は企業名の公開に踏み切っており、実際に平成28年度の「障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表等」では東京の2社が公開されている。ちなみに29年度は2社とも改善されたため企業名の公開はゼロとなった。

 

 ここまで厳しい処分を受けるまで障がい者雇用を拒否し続けた企業も企業だが、会社名の公開に効果があることも実証された形だ。

 ただし現状では、会社名の公開までは、障がい者の雇い入れ計画(2年)の作成命令を実施後、改善が遅れている企業に特別指導(9カ月)を実施したあとの公表というスケジュールとなっており、この2年9カ月という期間を短縮することは検討する価値はあるだろう。

 

 来年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、社会のムードが盛り上がる中で、障がい者雇用への認知度や理解が一段と進めばよいのだが