如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

女子の一般職に見直し機運、総合職との区分は無意味に

早慶女子があえて「一般職」を選ぶ根本理由(東洋経済オンライン)

橘木 俊詔 : 京都女子大学客員教授

 

 商社や銀行など大企業の「一般職」と言えば、中堅の女子大などが多くを占めるいわば結婚までの「腰掛」的なイメージを持っていたのだが、最近では「総合商社の一般職は、以前多かった女子大出身者ではなく、早慶などの超高学歴女子が大半」であるとする記事「早慶女子があえて『一般職』を選ぶ根本理由」が2月28日付の東洋経済オンラインに掲載された。 

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 著者は京都女子大学客員教授の橘木俊詔氏。恐縮ながら名前を存じ上げていないが、内外の著名な大学で学び、各官庁の研究員を経て、現職に至っている。専門は労働経済学、公共経済学で、著作は100冊以上あるそうだ。

 

 記事では、以前は「(入学難易度の高い大学出身の女性が)総合職を選択して受験してみたが採用されなかったので、仕方なく一般職で採用された、という人が多かったが、最近では意図的に最初から一般職の選択をする」ことが増え、総合商社では「一般職の70~80%が早慶女子が占めており、残りの20~30%も難関大学の私立大、すなわち上智、MARCHなどの大学の女子学生で占められる」と解説している。

 

著者はこの理由として以下の5点を挙げている。

  1. 一心不乱に働いて出世するよりも人生を楽しみたいとする人が増加した
  2. 定型的な仕事が非正規労働者で代替され総合職と一般職の違いが小さくなった
  3. 転勤だけを強要しない地域限定総合職の創設
  4. 働くことは結婚・出産までのことと考え、あえて進んで一般職を狙う
  5. 転勤のない一般職を当初から志願

 

 個人的には、1が最も大きな理由で、2がその次、残りは「結婚」「出産」などの家庭的な事情によるもので、過去からニーズ自体はあったので、現在の理由としては相対的に重要度に変化はないと思う。

 

 まず、1つ目の「仕事」よりも「人生」を楽しむという選択だが、これは女性に限らず男性の間でも増えていると思われる。現在も入社時からがむしゃらに働いて社内での出世を目指す人も多いが、一方でプライベートの時間を重視する人も増えている。

 ここで言うプライベートとはいわゆる「趣味」「休暇」などに限らず、スキル向上を意図したセミナー参加や資格取得なども含まれる。つまり「会社」と同じぐらい、もしくはより「個人」の将来を案じている

 

 名だたる大企業が終身雇用の廃止の意向を示し、リストラの対象は40代にまで低下、しかも業績は絶好調でも高給の中年以降の社員を切り捨てるのが一般化するなかで、若者が会社よりも自分の将来を最優先に考えるのは当たり前だろう。すでに「ザービス残業」という言葉はまともな企業では廃れている。

 

 これを後押ししているのが理由の2.にもつながるが、政府の働き方改革である。同一労働同一賃金をお題目にして、正社員の住宅手当、家族手当の削減はこの4月から一気に始まる。昨年の残業規制に続いて、総合職を含む正社員にとっては収入減に直結する。であれば最初から相対的に責任の大きい仕事が少ない「一般職」を選択するのは自然な流れだろう。

 

 というか、今後の大企業の新卒採用を予想すると、男女を問わずごく一部の幹部候補生と残り大部分の一般職員という2職種に集約されるのではないだろうか。

 

 記事にもあるが、補助的・定型的な業務はすでに非正規採用で対応しているうえ、今後AI機能の進展などでRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)によって現在正社員が担当している業務も相当部分が、自動化されるのは確実。総合職・一般職といった区分自体が意味を持たなくなるだろう。

 

 ここからは私の未来予想だが、今は「現在のお仕事は?」と聞かれた際に、会社務め(特に大企業)のサラリーマンは「〇×会社です」と社名で応対するのが一般的だが、これは通用しなくなる。おそらく「金融系のシステムエンジニアです」とか「中国相手の輸出関連です」といった具体的な職種が問われる時代になるだろう。

 

 自分のキャリアデザインを会社に丸投げしてきた40代後半以降の世代には厳しい世界だが、記事の「一般職希望の女子」に限らず、近年の一流大学の学生はすでに「名」よりも「実」を取りに動いている。

 採用側も、「会社単位」で「新卒を一括採用」する現在の制度から、「プロジェクト・事業単位」で「必要な人材を随時採用」に変わっていかざるを得ない時代はすぐそこまで来ていると思う。