如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

マンション在庫事情を反映? SUUMOの完成済物件特集

供給激減の新築より一向に減らない在庫に注目

 

 新型コロナウイルスの影響で事実上営業が停止していた新築マンション業界も、感染防止策などを講じるという手探り状態ながら活動を再開しているようだ。

 もっとも以前のようにモデルルームに購入見込み客を集めて、物件を対面で売り込むという手法はつかえないので、ベルフェイス社のオンライン営業システムによる物件紹介などを手掛ける向きも出てきている。ただ、営業手法がこれまでとはかなり変わることで、まだ効果のほどは確認できていない会社が多いはずだ。

 

 数千万円の買い物をするのに「オンラインの画像」で決めるにはまだ買い手も慣れていないためだろうが、新築マンションの場合、基本的に竣工前に購入することが多いことを考えれば、「実物を確認できない」という意味では、モデルルームでもオンラインでも同じこと。時間が経てば顧客も馴染んでくるかもしれない

 

 こうしたなか私が毎号購読している駅ナカの新築マンションのフリーペーパーSUUMOだが、手元にある最新号「2020.7.7東京市部・神奈川北西版」を見て、「うーん。その手があったか!」と感心した企画があった。

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 それは16ページ目から4ページ掲載された「完成済マンション超リアル見学術」である。サブタイトルには「見て選べるから後悔なし!」とまで書いてある。この企画、内容も実践的で参考になるのだが、何故か表紙には「特集」としての記載がない。竣工前の新築マンション販売への影響を考慮したのだと思われる。編集部門もいろいろと関係各方面に配慮が必要なようで大変なのだろう。

 

 記事の詳細は実際に読んで頂くとして、最も参考になったのは「プライバシー」について。窓から室内がどう見えるかなど完成済物件ならではの内容は参考になるはずだ。

 

 今回の「完成済物件特集」は、SUUMOとしてはおそらく初めての企画ではないだろうか。背景には郊外を中心に竣工後も売れ残っている在庫が高止まりしていることがあるだろう。不動産経済研究所の首都圏のマンション市場動向によれば、2020年5月末の首都圏マンション販売在庫は7773戸。2019年5月末は7655戸だったから、100戸以上増えている。

 我が家の周辺地域を見渡しても竣工から1年が経過して売れ残った物件は数知れず、なかには2年以上経過したものさえある。ちなみに「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の第二条第二項では、「『新築住宅』とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して一年を経過したものを除く。)をいう」と定義されており、竣工後1年経過すると「新築」とは言えないのだ。

 

 それはさておき、5月の新規販売戸数が393戸と前年同月比で82.2%も減少する(先の資料から)なかで、SUUMOを含めたマンション業界が、完成済物件の販売に力を入れざる得なくなったというのが、今回の特集記事の背景にあるのは間違いなさそうだ。

 

 これは個人的な意見だが、そもそも数千万円の買い物をするのに、実物を見ないで購入するという「青田買い」が当たり前の新築マンションの販売形態自体が、異様ではないかと以前から感じていた。購入時点で想定していたイメージと、実際の引き渡し時の物件の仕様がある程度異なるのは当たり前だからである。

 

 コロナ禍の影響で収入が減少する世帯が今後増えるのは確実、新築マンションの買い手が一段と慎重になるのは間違いない。在宅勤務の普及で都心のマンションへのニーズは減る可能性もあるし、郊外などへの住み替えに伴う中古物件の登録件数も増えそうだ。 

 「青田買い」から「実物買い」へと購入希望者の考え方が変わっていく可能性も十分にあると思うし、むしろ今回のコロナ禍を逆手にとって業界全体がその方向に転換していくべきだと思う