如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

住みやすい街を巡る「不都合な真実」 あなたの住まいの常識、間違ってます!

 

住みたいまちランキングの罠

2018年3月15日

 駅ナカにある住宅情報無料誌SUUMOやマンション特集の雑誌記事などで掲載される「住みたいまちランキ
ング」の現実を様々な視点から分析、安易な同意や納得に警鐘を鳴らす異色の本である。

 具体的には前半で、
  ・保育園は「認可」よりも「認可外」が狙い目
  ・緑、公園が多いことはデメリットにもなる
  ・武蔵野市の犯罪件数は人口当たりで川崎市の2倍
  ・病院数、ベッド数は外来、急患の以外の病床も含む
  ・水道料金が安いのはメンテナンス費用を先送りしただけ
  ・可燃ごみ清掃工場の近くはパラダイス
 などなど、数多くの事例が挙げられている。

 本書の内容がすーっと理解できるのは、こうした具体例を普通の住民の立場から取り上げているほか、解
説を裏付ける「数表」「写真」「イラスト」が本書全体に適度に配置されているという側面もあるだろう。

 得てして「住宅・不動産問題」の専門家がこの手の本を書くと、自己主張の文章だらけになるか、とにか
く膨大なデータの類があふれていることが多いのだが、著者は学習塾の講師などを経て「行政評論家」とい
う肩書を持っているものの、住宅・不動産の専門家ではない。その背景が影響しているのかはわからないが、
読者に近い視線でわかりやすい文章を書くのは上手だと思った。

 さて、後半のポイントは第七章「マンション購入を煽る『常識』に騙されるな」だろう。筆者は結論とし
て、まず「家を買う・借りるの損得は、誰にでも当てはまる唯一の答えはない」としている。が、さらに読
み続けると分譲マンションの「価値下落」「事故などの風評被害」「地震などの自然災害」「施工不良」な
どの不確定要素を挙げ、さらに「管理組合の雑務」でダメを押し、最終的に「ライフステージに応じてふさ
わしい地域や間取に転居」という賃貸派有利に主張はやや傾いている。

 「買う・借りるの損得勘定」については条件設定でどうにでもなる訳で、本書にあるように「神学論争」
という指摘もあるが、東京を含めて今後中長期的な人口・世帯数の急激な減少が確実という条件下、過去の
バブル並みの価格で、かつ変動金利の35年ローンを組んで買うのは「無謀」と言わざるを得ないのではなか
ろうか。確かに老後の年金で賃貸料を払うのはキツイだろうが、数十年後の中古物件なら築浅でも今よりか
なり安く買えるはずで、退職までは賃貸で臨機応変に対応し、退職時に現金一括で購入するというのが合理
的かもしれない。

 住宅、不動産に関する書籍は数多いが、様々な角度からの「すみやすさ」ランキングの実態を正面から取
り組んだ本は少ないと思うので、その貴重さを評価して★5つ。