如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

不動産の選択基準は「街」になる

 

街間格差-オリンピック後に輝く街、くすむ街

牧野 知弘

2019年1月11日

 大手デベロッパー出身で東京の不動産市場に精通し、わかりやすい解説を個人的に高く評価している牧野氏
の最新刊である。

 今回のテーマは「街」。これまで東京23区の地域差は「行政区」や「駅」という視点が中心だったが、これ
からは「街」になるというのが著者の見解だ。

 この背景には、働き方改革の進展などで自宅や郊外オフィスなどでの勤務が普及し、職住接近という「通勤」
利便性の優先度が低くなることで、一日の大半を過ごす「街」の重要性が拡大するという見立てがある。

 周囲を見れば、自分や知り合いの会社でも在宅勤務はごく普通に認められるようになっているし、フレック
ス通勤はもはや当たり前だ。

 会社にとっても都心のオフィスに社員全員分の机を確保するのは無駄が多いし、ネット環境の充実で自宅で
の仕事も特に困ることはない。加えて通勤の解消で労使ともに時間の有効活用ができるし、通勤交通費の削減
にもなる。逆に目立ったデメリットは特にないはずだ(サボリをどう監視するかは別にして)。

 この結果、ブランド志向や投資需要に基づいた現在の都心の一部の人気地域(広尾、四谷など)を除けば、
相続ラッシュと農地の放出という供給拡大要因もあって不動産価格の下落は避けられない、という。

 ということで東京の不動産の先行きは総じて明るくはないのだが、今後「ライフスタイルなど自分自身を軸
にさまざまな角度から住む『街』を選ぶ」(p104)という人が増えてくれば、街の魅力度や特徴などで本書
のタイトル「街間格差」が広がるというのが著者の真意だ。

 この「街」を選ぶための具体的な解説が、第3章「街間格差」にある「ブランド住宅街に住む」「外国人街
に住む」などの街のカテゴリー別の説明と、第4章の「輝く街、くすむ街」にある23区の行政区分別の分析
だ。
 特に、23区については将来性の「ある街」「ない街」を具体名を挙げて解説しており、賛否両論はあろう
が、専門家の意見として参考になるのは間違いない。

 著者は「おわりに」で、これまで日本人は住まい選びで価格や通勤、ローンなど「家」のことしか考えてこ
なかったが、これからはより多くの生活時間を割くことになる「街」のことをもっと考えてもよいのではない
か、と提案している。

 駅の規模や利便性、商業施設などハード面の充実度に加えて、今後はコミュニティの活性度や住民意識の高
さなどソフト面の取り組みが不動産選択のカギのひとつになる可能性は高そうだ。
 
【追記】
 私自身、通勤の利便性から墨田区、江東区、江戸川区などに都合10年以上賃貸住まいをしたことがあるが、
この経験を踏まえて本書に書かれた23区の街分析について一言。

 まずは台東区。ここで「浅草に住むなら喧騒を避けて千束あたりがよさそう」としているが、ここは別名
「吉原」、全国屈指のソープランド密集地区である。その手の嗜好があれば話は別だが、常識的には住宅街と
しては不適格だろう。

 次に江東区。「おすすめは門前仲町」とあるが、昨年の東洋経済の調査によれば東京メトロ東西線の門前仲
町-木場間の混雑度は199%で全国トップである。この駅付近に住んだこともあるが、朝の通勤電車では利用
者の顔がドアの窓ガラスにへばり付いていつも見事に変形していた。もはや「痛勤」のレベルである。