如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

日本の命運は「ポリテック」が握る。カギは住民の理解

 

日本進化論

落合 陽一

2019年1月10日

 ポリテックとは、政治(Politics)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語だが、著者との対談の
なかで、小泉進次郎氏は「『テクノロジーによって何が可能になるか』といった観点を政治の議論に取り入れ
ていくこと」(p20)と定義している。

 具体的には、破壊的なスピードで進化するテクノロジーに、国、地方自治体など政治・行政の旧態依然とし
た仕組みが変化に対応できず、日本が本来持っている潜在成長を生かせていない、ことが問題だという現状認
識が前提にある。

 もっとも、新しいモノやサービスが出回ると、すでに似たような事業を展開している企業が反対するのは、
ここ数十年来日本で繰り返されてきたわけで、「既得権益組vs新規参入組」に限らず、「慣れ親しんだモノ
擁護派vs目新しいモノ推進派」、「現状維持大好きなシニア層vs常に新しさ志向する若者」といった対立
軸は、特段珍しい内容ではない。

 本書の特徴は、「テクノロジーを人間の外側で使うものではなく、身体につながった生態系」(p32)とし
てとらえるべきとし、「今テクノロジーでこんなことができるから、こんな制度の整備が必要」というメリッ
トを強調することで、抵抗派への説得、政策の実現を図ろうというスタンスにある。
 
 86ページに、財務官僚から茨城県つくば市に転身した副市長が、業務自動化ソフトの導入で業務の8割削減
を実現、今後の改革については民間の支援を受けて「予算ゼロ」での実現を目指している、という自治体の成
功例を紹介している。

 ただ個人的には、こうしたポリテックの推進には首長の強力なリーダーシップと、それを支持・応援する住
民勢力が一体化し、一部の抵抗勢力の自己中なワガガマを押し切る覚悟が必要不可欠だと考えている。

 特に地方の山間部や農村、漁村といった田舎では、地元の長老や有力者が実権を握っていて、何が何でも現
状の仕組みを踏襲することが大前提で「現状を変えなくては」という危機意識をまったく持たない、もしくは
絶対に持ちたくないという、変化を拒絶する地域がまだ大半のはずだ。

 例に挙げたつくば市は、政府主導で1960年代から大学誘致を契機に開発された新興地域で、古くからの地主
や有力者が少なかったという住民構成が、先進的な政策を受け入れやすかったという側面はあるだろう。

 本書では、テクノロジーの発展を前提に働き方、超高齢化、子育てなど多岐なテーマについて日本の将来の
課題と解決策を提示しているが、その実現に向けて最大の「問題」は、住民が地域社会の将来を「自分だけの
問題」ではなく、「コミュニティ全体」の問題として、冷静な大人の対応ができる住民が多数を占めているか
どうかになるだろう。

 そして、その住民にテクノロジー(Technology)主導の「ポリテック」政策によるメリットを丁寧に説き、
納得させるのは、まさに選挙で選ばれた議員である政治家(Politician)の仕事・責任であるはずだ。

 地域の将来は、政治家・自治体・住民の3者の「理解力」「想像力」「行動力」にかかっている。

 ポリテックの重要性と影響を、政治家と自治体、住民がしっかりした共通意識をもって取り組めば、その地
域の将来は期待できそうだが、逆に過去と現状に固執する地域には、相対的に暗い未来しかないという、明暗
がはっきりする地域の「現実」はすぐそこに迫っているような気がする。