如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「読書」は「体験」、「体験」は「人格形成」に影響する

 

読書する人だけがたどり着ける場所

齋藤 孝

2019年1月9日

 コミュニケーション論など専門とする大学教授の著者が、「読書」をテーマにその意味と価値を語る本で
ある。

 大学生が本を読まなくなった、いう話は割と聞くが、著者によれば「大学の先生も教養のための幅広い読書
をしなくなった」(p18)という印象があるそうだ。

 学生に学問を教える側がベースとなる本を読まないのでは、伝えられる知的水準もあまり期待できそうには
ない。

 大学という教育現場での事例を引き合いに出し、世の中に広まる「読書」離れの状況に危機感を持った著者
が、読書の重要性について様々な角度から解説している。
 
 本書には、読書のいろいろな効用(教養、思考力など)が書かれているが、その根っこにあるのは「読書」は
「体験」であり、「体験」は「人格形成」に影響する(p8)ということに集約できるだろう。
 
 実際に読書となると、一つのテーマや一人の作家について「深く」読み込む、もしくはジャンルを問わず
「広く」読み漁る、のどちらかになる傾向は少なからずあるだろうが、著者のオススメは「広く深く」だ。

 というのは、深さの要素には「つながり」があるので、「ある程度広さがないと深みに到達するのは難しく
なる」(p61)からだと説いている。

 個人的には、とにかく興味のある分野の本は何でも早く読みたい派なので、「深く」よりは「広く」を選択
してきたのだが、難解な本を最後まで読み切れば自信に繋がり、集中力も鍛えられる、という指摘には合意で
きる面もある。

 ちなみに私は、難解な本は平易な解説本で満足していたし、集中力も新書のノウハウ本で納得していたのだ
が、これは著者によれば本来の「読書」ではないらしい。

 また、本書にはいわゆる名著が「思考力を深める」などのテーマ別に40冊紹介されている。哲学、歴史など
分野は多彩だが、どの本にも「その本を読む意味や価値」を示す数行のコメントが付いているのがありがたい。

 私も含めて「難解な読書」から長く遠ざかっていた者には、とりあえず硬い本を選ぶためのいい羅針盤にな
ると思う。

 まずは「饗宴」(プラトン)あたりから読もうと思うが、どうしても「読みやすさ」から入ってしまう自分
が何とも不甲斐ないと感じる次第。