如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「好きなものを食べ」「毎日酒を飲む」という健康法

 

はつらつと老いる力

帯津 良一

2019年2月24日

 いやはや何ともすごい健康法があったものである。

 著者は東大医学部を卒業、82歳にして現役の医師なのだが、西洋医学⇒心理療法⇒ホリスティック医学と治
療方針を変えてきたことで、独自の診療方針を打ち立てたようだ。

 本書のテーマは「老い」なのだが、もっとも面白い内容は第一章「こころ」と第二章「いのち」にある「健
康法」だ。

 まずは「食事」。著者は、がんにならないための食事といった情報に流されずに「自分の胃袋が欲するもの
をしっかり食べることが、いちばん大事」(p68)と説く。この根拠になっているのが、「食べない方がいい
といわれている食品であっても、おおいなる喜びにときめいて食べれば、食材の不利を補ってあまりある」
(p45)という考え方だ。

 例を挙げれば白菜の漬物。著者は浅漬けに七味唐辛子を「山のようにかけて」おかずにするらしい。他にも
「塩で固めたシャケ」など”刺激物”が好みのようだ。

 次にすごいのが「酒」である。著者は「ほどよく飲めばはなはだ益がある」として毎日晩酌を欠かさないそ
うだ。養生法なのだから「休肝日などもってのほか」(p73)とまで言い切る。その結果γ-GTPは20年以上異
常値が続いているらしいが気にしていない。

 さらに驚くのは自身の経営する病院の入院患者にまで酒を勧めていること。個室病棟まで先生自らが酒瓶を
届けることまであるらしい。しかも「看護師さんに見つかると叱られるので、気づかれないように飲んでくだ
さいね」という丁寧なアドバイスまで付けて添えて。

 ここまでくると、酒が欠かせない入院患者にとっては「天国」のような病院かもしれないが、重要なのはこ
の治療法で「こころ」が元気になって「からだ」の不調まで取り戻すことができるのか、だろう。個人的には、
病状による痛みなど身体的な負担が大きく、何らかの精神的な拠り所が必要な患者には効果が見込めそうな気
がする。

 確かに、厳格な食事制限でストレスをため込んで「人生がちっとも楽しくない」という状態が続くよりは、
こころの健康にも配慮して「たまに理念を踏み外すぐらいがいい」(p48)という治療方針にも理解できる側
面はある。

 後半は「老い」「死」がテーマになるが、人生を達観しているのか、淡々と著者の考え方が紹介されている。
合点がいく内容が多いが、先に書いた「健康法」に比べればインパクトは弱かったというのが実感だ。
 
 高齢の現役医師が長い経験から導いた独自の健康法を知ることができる、というだけでも本書の価値はある
と思う。